デスティネーション・ストア | File 050
2024.09.13

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 050:TABANERU BOOKS(東京都・東雪谷)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 050は“知る人ぞ知る“ならぬ“知っている人しか知らない”ロケーション、大田区・東雪谷の住宅街ににポツンと場所を構える書店「TABANERU BOOKS」。

Text Takaaki Miyake

空間としての書店がきっかけに

本企画ではFile 040で一度登場したことのある、東京23区内でも有数のローカル感が漂う東急池上沿線。その中でも住宅やスーパー以外があまり見当たらない石川台駅周辺エリアで、駅から徒歩5分の場所に存在するのが今回の「TABANERU BOOKS」だ。

2019年11月に同店をオープンした店主の中野木波さんだが、決して昔から本を大量に読んでいた人生ではなかったという。

「小さいときに家で時間を過ごす際は絵本の読み聞かせはしてもらっていたので、本に触れる機会はもちろんありました。ですがその後も本を毎日欠かさず読むというわけではなく、むしろ本屋という空間が好きだったので、昔からどこかに行くとしたら本屋でした。

「TABANERU BOOKS」の店内には、そんな中野さんがセレクトしたヨーロッパの絵本やデザイン書に加えて、読み物や漫画もジャンルレスに並んでいる。その全てが古本かと思いきや、同じ棚に新書と古書が自然に同居しているのもユニークだ。

本は読むではなく、見るもの

TABANERU BOOKS

中でもやはり特に目を引くのは、日本語訳された絵本ではなく、海外で出版された原語版の書籍の数々。たしかにストーリーや内容を完全に理解せずともデザインだでけで楽しめそうなセレクションだが、そこには中野さんの本に対する視点が反映されている。

「あるとき一冊のチェコの絵本に出会ったのですが、もう絵本という概念を超えて絵やデザインのクオリティが衝撃的でした。『何でこうやって作ったんだろう?』という疑問がたくさん出てきて、そこからデザインとしての本の世界にのめり込んでいきました。

意外に読み物でも面白い装丁をしているものが多いので、本は読むよりも見るという感覚が強いんです。そういう意識もあって、実はブックザインの授業があるという大学のグラフィック学科に一度は進学したんです。

ところが入学した年にちょうど、その授業が廃止になってしまって。だったらまずは大学を辞めて、書籍との距離が一番近い本屋で働くことに決めました」

その頃から中野さんは本をデザインする側ではなく、「いつかは本屋を開こう」という想いを抱き始めた。選書を一つの表現として捉えることで自分がやる意味、そして自らの原点でもある空間としての書店作りに向けて再び歩みを進めることになる。

個性が宿るセレクション

TABANERU BOOKS

ところが「TABANERU BOOKS」の開店にあたり、大手書店と古本屋でも経験を積む中で、早くも理想と現実とのギャップを突きつけられた。

いわゆる新刊書店の多くは、出版社との関係値から成り立つコマーシャル性から、届いた書籍をただ陳列する作業化になりやすく、書店員の個性を発揮する難しさに気付く。

一方で古本屋業界でも慣習的なルールやしきたりの縛りがあり、自由かつ個性を持った書店に対する想いを一層強くさせた。

「そういった背景があるので、ここでは全体的に自分が『デザインが面白い』と思える本を置いています。例えば60〜70年代のチェコの絵本は子供が喜ぶような可愛い絵ばかりでないですが、当時国営の出版社から児童書として販売されていました。

『だったら今はどんなものが出ているのか』というところから、バオバブという新刊の出版社、他にもオランダやドイツ、フランスやイタリアからの書籍もキュレーションしています」

洋書や古い絵本、アート本の境が心地よい曖昧さを持つ

「TABANERU BOOKS」では、ミシマ社やナナロク社などのインディペンデントなパブリッシャーが手がけるユニークな書籍も顔を揃える。

紙から映像へ

TABANERU BOOKS

オープンから5年弱が経過し、現在では定期的にイベントも開催している「TABANERU BOOKS」。

「最近はイラストレーターの展示や、毎年11月は小さなチェコ祭りとして、チェコのフードや文化的なものを集めて、映像作品なども紹介しています。

チェコはアニメーションが有名なので昔からの作品はよく上映されていますが、最近は若手の作品を見られる機会や場所が少なく、そういった映像主体のイベントも考えています」

実際に書店をオープンして運営しているからこそ、見えてくる悩みや発見も最後に教えてくれた。

「店主は店の奥でずっと本を読んで、みたいなイメージとはかけ離れていて(笑)。自分が行動的に色々な人と知り合いながら、企画をしていかないといけないお店の難しさは感じています。でも同時にこんなニッチな世界、しかもこのロケーションなのに目的地として来てくれる方が思ったよりも多く、嬉しく思っています。

自分の最初の原体験となった一冊に出会ったときの衝撃と、同じような体験を一人でも多くの方に伝えられると良いですね」

DESTINATION STORES | File 50
タバネルブックス | TABANERU BOOKS
東京都大田区東雪谷2-30-3
営業時間:14:00〜20:00(木・金)、13:00〜19:00(土・日)
https://tabanerubooks.stores.jp/
https://www.instagram.com/tabanerubooks/