JOURNALIST’S EYE #2 MASU
2022.02.28

次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド5選




Text Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)


コロナ禍前は年間250本以上のファッションショーを取材し、数えきれないほどの展示会を長年にわたって見続けているファッションジャーナリストの増田海治郎。彼が「いま知っておくべき日本ブランド」をピックアップしてお届けする不定期連載。「次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド」について5回にわたってお届けする。今回はMASU(エムエーエスユー)。

アーカイブを自在にアレンジする若き研究者

MASUをこの目で見たのはセレクトショップの店頭と最初のショーのみで、展示会には一度も足を運んだことがない。それでも若手の注目ブランドを聞かれたら、ここ数年は必ず名前を挙げてきた。古着からの引用のさじ加減が新鮮だったのと、高いクオリティと反比例した買いやすい価格、そしてBED j.w. FORD以来の独特の色気があるブランドに見えることが主な理由だ。そしてデザイナーズ古着(アーカイブ)のコレクションでは世界有数の規模を誇るLAILA出身、という出自にも興味を惹かれた。

デザイナーの後藤愼平が古着に興味を持ったきっかけは、60年代後半〜70年代前半のヒッピー全盛期のアメリカのクラフトレザーだという。代表的なブランドはEASTWEST、NORTH BEACH LETHER、GANDALFなどで、そうした貴重なピースを多く在庫していたのが、後に入社することになる表参道のビンテージショップ「LAILA」だった。文化服装学院在学中からライラでアルバイトをはじめ、卒業後は同社から立ち上がったブランドSEVEN BY SEVENの企画生産を担当。デザイナーの川上淳也はもともと著名な古着バイヤーで、LAILAは言うまでもなくアーカイブの宝庫。在籍した4年間で触れた服のクオリティ、バラエティは、他のヴィンテージショップでは決して得られない類のものだったのではないだろうか。前述のRequaL≡の土居と同様にに、後藤も “若きアーカイブ・モンスター”なのは間違いないだろう。MASUのコンセプトは以下のとおりだ。

型の決まった服の長所と短所を考察し、その型や伝統を尊重しながら現代の空気を纏わせることに重きを置く。 


コンセプトは「マス/プロダクト(MASU / PRODUCT)」で、明確な固定概念がある要素を再定義することで生まれる新しい量産品を指している。


ブランド名は、日本語の敬語に使用される「~ます」に由来。日常で最も多く使用されながら価値を無くさない「ます」という言葉のように、服が好きな人達にとって価値が無くならないアイテムやスタイルの提案をしている。

さよう、MASUの服は20代が作る服にしては珍しく“基本の型”がある。フライトジャケット、テーラードジャケット、ライダースジャケットといったベースの長所と短所を考察し、現代にあった基本に置き換える。そこからさらに自由な発想でアレンジを加える。それがMASUの骨子だ。2022SSのテーマは“silver lining in the cloud”。「自分がもっと未来を楽しみにしていたのはいつだったのか?」という問いからスタートしたコレクションで、1970年代のファッションに夢中だった青春時代を表現したという。写真で見るかぎりではファーストショーより全体がまとまっていて初期衝動のようなものが上手く表現できているし、これまでのジェンダーレスな匂いが薄まって力強さを増している。

展示会取材もしていない段階でアドバイスをするのは気が引けるが、今後の課題は“MASUの型” を作ることだと思う。プロダクトとしての完成度は高いものの、どれを見てもMASUだと分かるような圧倒的な個性をまだ生み出せていないように見えるから。先にパリ、ミラノを歩いている30代の先輩たちとはそこが違う。今シーズンはショーを予定していないようなので、初めて展示会でじっくり服を見たいと思っている。

Designer Profile

後藤愼平。1992年、愛知県出身。2014年に文化服装学院を卒業後、ヴィンテージショップ「LAILA」に入社。同社のブランド「SEVEN by SEVEN」の立ち上げメンバーとして2015-16AWから2018SSまで企画、生産として携わる。退社後、2018-19AWにMASUのデザイナーに就任し、リブランディングを敢行。2021AWには初のランウェイショーを開催した。

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