ファッションプロダクトのストーリーやその裏側にあるあれやこれやを、少しだけ厳しい目線と深いプロダクト愛でお届けする好評連載企画。雑誌『PRODISM』編集長の渡邊敦男と『HONEYEE.COM』編集長の武井幸久、そしてスタイリストの来田拓也が毎回テーマを決めてピックアップしたモノについて縦横無尽に語ります。今回も5つのブランドから気になる最旬アイテムをピックアップ!
Edit&Text : Atsuo Watanabe(PRODISM)&Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Styling : Takuya Raita
Photo : Kengo Shimizu
CFCL
ニットジャケット
“配色を含めて、単純にプロダクトとしてキレイだよね”(渡邊)

来田拓也(以下 R):3Dコンピューターニッティングを駆使したニッティングが特徴的で、環境問題の観点からも無駄な生地が出ないような作り方をされています。ISSEY MIYAKE MENでデザイナーを務めていた高橋(悠介)さんによるブランドです。
渡邊敦男(以下 W):ISSEY MIYAKEでデザインしてただけあって、色とかニットの使い方がさすがですよね。
武井幸久(以下 T):シルエットもコンピュータープログラミングならではって感じがする。
W:配色を含めて、単純にプロダクトとしてキレイだよね。
R: 最近ってこういうカラーリングのアイテム少ないですし、この素材で洗えるっていうのは魅力的ですよね。
W:お洒落だし作りがもうプロだよね。個性的だけど着心地も良さそうだし。
T:羽織ると意外にサラッと着こなせるかも。
W:派手だけど嫌味な感じは全然ないし、実際に着ると良さがより分かるね。
R:他にもニットでパンツやTシャツ作っていて、バケットハットは面白いなと思いました。
W:サステナブルっていうところもあるし、ニットの面白さって再注目されてるね。CFCLはテクニカルニットの代表格みたいになっていくんだろうね。
丸みのあるボリューミーなシルエットが特徴のCFCLによるブルゾンは、地層を連想する細かい横溝テクスチャからSTRATUM(地層)と名付けられた。カラーリングも印象的だが、それぞれの色味に関しても高いこだわりが感じられる。
CFCL
STRATUM BLOUSON ¥69,300(CFCL)
cfcl.jp
FUMITO GANRYU
M51 Shirt Jacket
“QRコードはロゴを消費する状況に疑問を投げかけているそうです”(来田)

R:モッズコートをネルシャツに再解釈した一点です。
T:モッズコートだけど襟がシャツみたいな感じか。
W:アウターとして着るんだよね? 個人的にはすごく好きなチェック柄だな。
T:シャツアウターですね。
R:最近ネルシャツってすごく流行ってるんですよ。
W:それにしても作りが上手いよね。FUMITO GANRYUはどのアイテムを見てもカッコイイもん。
R:このQRコードは、ロゴを機能とすることで、記号としてロゴを消費する状況に疑問を投げかけているとのことです。
T:あ、このタグ、マジックテープで外れるようになってる。
W:じゃあ要らなければ取ってもいいってことか。たしかにロゴのイメージないもんな。
R:FUMITO GANRYUって着る人のセンスが問われる印象でしたけど、コレは誰でも着やすそうかなと。
T:COMME des GARÇONSを離れてから、またブランドのスタイルを確立してきましたよね。
FUMITO GANRYUによる、M51 モッズコートとシャツを併せたデザインのシャツジャケット。ハイブリッドではあるが、その使い勝手の良さはアイテムを見るだけでも分かる。
FUMITO GANRYU
M-51 SHIRTS JACKET ¥53,900(FUMITO GANRYU )
fumitoganryu.jp
ALMOSTBLACK
Tシャツ
“普遍的な洋服だけ作ってるブランドの価値観とは違う気がする”(来田)

R:“ポストジャポニズム”をコンセプトにしていて、伝統工芸やアートから毎シーズンデザインのインスピレーションを受けている、ALMOSTBLACKのTシャツです。
T:作品のタイトルがTシャツにプリントされてるのがユニーク。
R:Tシャツ自体がアートワークみたいになってますね。
T:面白いデザインなんだけど、普通にお洒落なのが良いね。
R:ALMOSTBLACKはデザイン性の高い洋服が多いですよね。
W:個人的にはこういうシーズン性がしっかりと伝わるプロダクトが好きだな。
R:衣装っぽいアイテムもリリースしていて、ミュージシャンとかも似合いそうだなと。普遍的な洋服だけ作ってるブランドの価値観とは違う気がする。毎シーズンこういった象徴的なアイテムを見てみたいですね。
作品タイトルまでをグラフィックとして取り入れることで、Tシャツそのものでアートを表現したALMOSTBLACK。アート作品を単純にグラフィックとして用いるのではなく、作家に対するリスペクトも感じられる。
ALMOSTBLACK
左 ¥28,600、右 ¥24,200(ALMOSTBLACK)
info@almostblack.jp
ENCOMING
ランドスケープシャツ
“若さゆえの“勢い”が最大の武器だと思う“ (渡邊)

R:ロンドンのNicholas Daleyの元で働いていた、20代後半デザイナーのブランドです。その年齢ながら色気を感じる洋服を作られてるんですよ。
T:面白いですよね。モチーフは写真だけど、パッと見はヒョウ柄とかに見える気もするし。
R:イタリアを横断旅行のときに撮ったアルプス山脈の写真らしいです。
W:ディテールも含めて完成度は甘いんだけど、若さゆえの“勢い”が最大の武器だと思う。デザイナーの作りたいモノが伝わってくる。
R:色々なブランドを見てて思うのが、洋服ってそのデザイナーの方の人間性が表れますよね。そういうところがファッションって面白いなと。
W:その方がコレクションブランドとしては良いよね。
R:最近は若くして海外での経験を積まれてるデザイナーの方が多いですよね。グローバルな視点が影響しているのかもしれないですね。
W:細かいディテールとかは今後クオリティは自然と上がるから、これからも自分の好きなモノをストイックに作ってほしい。
T:いつかヴィンテージ古着になりそうな雰囲気もあるなあ。
ロンドンのキングストン大学でファッションデザインを学び、Nicholas Daleyのもとで2年間シニアデザイナーとして経験を詰んだ、デザイナーの加藤大気によるブランド。自身がイタリアを旅した経験から着想を得たシーズンのアイテムで、自ら撮影した写真をシャツのグラフィックに起用している。
ENCOMING
LANDSCAPSHIRT ¥49,500(ELIGHT Inc.)
info@encoming.net
Taiga Takahashi
レザージャケット
“実力と生産背景がないとこの物作りはできないよ”(渡邊)

R:こちらも注目されている若手ブランドの一つです。
W:デザイナーが同世代だけど、さっきのENCOMINGとは真逆なぐらい無骨な洋服だね。
R:デザイナーの方が研究者ぐらいのレベルで深掘りするらしいです。ヴィンテージをベースにしているので、サイズ感は全体的にタイト目なんですが、それを今の世代の子たちはジャストサイズで着てるみたいですね。
T:こういうのをジャストで着るんだね。というかコレがすでに古着みたいな風格がある。
R:色々なメゾンブランドで経験されたみたいですが、そういう方がこういった洋服を作るって面白いですよね。
W:20代の子がここまでのアイテムを作れるって単純にすごいよ。洋服がすごく好きなのが分かるし。
R:作ってる他の洋服も1910〜30年代のモノを元にしていて、そこの着眼点が独特ですよね。
T:その年代って大量生産前の洋服だもんな。
R:さすがブランドコンセプトに“考古学”って入ってるだけありますね。
W:そういう解釈でプロダクト化するって面白いコンセプトだし、実力と生産背景がないとこの物作りはできないよ。平和生まれのインディ・ジョーンズですね(笑)。
10代の頃から70〜100年超えの古着を数千着という膨大な数で蒐集し、ブランド哲学に「過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する」を掲げて活動していた27歳の若きデザイナーであり現代美術家髙橋大雅によるTaiga Takahashiのレザージャケット。1930 年代のアメリカ製のカーコートをベースに、樹木や植物などから抽出した天然の渋を用いてベジタブルタンニングを施し、さらに奄美大島で一枚一枚手作業で泥染した馬革と草木染めを施したナットボタンを使用したアート級の一品。
Taiga Takahashi
AUTOMOBILE LEATHER JACKET ¥528,000(Taiga Takahashi)
taigatakahashi.com
※編集部注 : この取材の翌日にデザイナーの髙橋大雅さんの訃報が届きました。このBEHIND THE PRODUCTの取材でも、「こんなすごいものを作れる27歳の日本人がいるんだね」と盛り上がった翌日のことだったので、一同大きなショックを受けています。まさにこれからの活躍が期待されたデザイナー、高橋大雅さんのご冥福をお祈りいたします。

(左から) 渡邊敦男(『PRODISM』編集長)、スタイリスト 来田拓也、武井幸久(HONEYEE.COM)
渡邊敦男(『PRODISM』編集長)
1973年生まれ。『Asayan』、『Huge』などの編集を経てフリーランスに転身。2013年にプロダクトにフォーカスした雑誌『PRODISM』を創刊し、現在も編集長として活動中。メンズファッション、スニーカー、ストリートウェアに通じており、独自の美学を持つ。
スタイリスト 来田拓也
1986年生まれ。甲斐弘之氏に師事し、2012年に独立。メンズファッション誌を中心に活躍。トレンドを敏感に取り入れたプロダクトスタイリングにも定評がある。現在アシスタント募集中。
武井幸久(HONEYEE.COM)
1972年生まれ。雑誌『EYESCREAM』の編集者を経てHONEYEE.COMの編集長に就任しつつ1年で退任。フリーの編集者、クリエイティブディレクターとしてブランドサイトやメディアの立ち上げに携わり、2021年秋にHONEYEE.COM編集長に出戻り就任。