BEHIND THE PRODUCT #17
2022.09.01

ファッションプロダクトのストーリーやその裏側にあるあれやこれやを、少しだけ厳しい目線と深いプロダクト愛でお届けする好評連載企画。雑誌『PRODISM』編集長の渡邊敦男と『HONEYEE.COM』編集長の武井幸久、そしてスタイリストの来田拓也が毎回テーマを決めてピックアップしたモノについて縦横無尽に語ります。今回も5つのブランドから気になる最旬アイテムをピックアップ!





Edit&Text : Atsuo Watanabe(PRODISM)&Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Styling : Takuya Raita
Photo : Kengo Shimizu


sacai × MADSAKI

ニット、カーディガン

“本当にアートと一緒に遊んでいる感じ”(武井)

来田拓也(以下 R):sacaiとカイカイキキギャラリー所属のアーティスト、MADSAKIさんとのコラボレーションニットです。この刺繍(Sheeple, Zombies and Kool-Aid)がスラングで、周りに流されやすい人を指す言葉なんですけど、こういう挑発的なメッセージを大人っぽい人が着てたら、ストリートっぽくてカッコイイのかなと。リサーチで色々見ていると、今季はピンクが多いですね。

武井幸久(以下 T):すごく良い色。大人が着たくなるピンク。実はこの前偶然MADSAKIに会ってこのメッセージの意味を聞いたら、「流されて行動する現代人を皮肉ったアンチテーゼが通っちゃった(笑)」って言ってましたよ。

R:それはすごい裏話ですね(笑)。

渡邊敦男(以下 W):それを知れると、さらにこのアイテムの魅力が増してきますね。

T:彼ってその時の気分を表現したメッセージをハンドペイントで書く作品スタイルもあるんですが、今回みたいなアイロニックな言葉を、sacaiというハイブランドが認めたのもクールですよね。

W:「上質な大人のストリートウェア」って言葉があるけど、まさにこのアイテムってそれを体現していると思う。ストリートなスタイルに落とし込みつつも、sacaiみたいなラグジュアリーブランドと組むことで洗練される。でもメッセージは強烈っていう。他のラグジュアリーブランドもこういうことをやりたいのかなって。

T:本当にアートと一緒に遊んでいる感じが良いですよね。

W:だから最近はストリートファッションを楽しむのって、お金がかかるのが分かってきました。もちろん高い服以外にもありますけど、こういう上品でニッチなストリートの楽しみ方もここ数年でできた選択肢かなと。

T:このアイテムに関して言えば、細かいけどサイドのボタンで開けるのも普通のニットとかカーディガンと違って良いですよね。

W:そこがsacaiらしいし、このピンクはアリですね。

T:コレは欲しいなと思ってます。

W:買いましょう(笑)。

アーティストのMADSAKIとコラボレーションしたsacai 2022AWシリーズのクルーネックニットとカーディガン。MADSAKIの手書きを刺繍で表現した“Sheeple, Zombies and Kool-Aid”は、周囲に流されやすい人を皮肉ったスラング。このアイテムは鮮やかなピンク、そしてボタンやジップで開閉できるサイドに入ったスリットなど、sacaiらしいアイテム的な魅力も。

sacai
MADSAKI
ニット ¥63,800、MADSAKI カーディガン¥69,300
sacai
TEL : 03-6418-5977
sacai.jp



A-POC ABLE ISSEY MIYAKE × YUMA KANO

TYPE-IV Yuma Kano project

“古臭くないプロダクトを継続的に出してるところが、このブランドの強み”(渡邊)

R:A-POC ABLE ISSEY MIYAKEが、新進気鋭デザイナーの狩野 佑真さんと取り組んでいる実験的なプロジェクトから生まれた一着です。

T:この錆びた感じは織りで表現されてますね。

W:手が込んでるプロダクトだね。

R:イッセイ ミヤケのブランドって度々アーティストコラボをやっていて、いつも印象的だなと思って注目してます。

W:若いアーティストとも一緒にやってるのも、すごく好感が持てます。古臭くないプロダクトを継続的に出してるところが、このブランドの強みなんだろうなって。

T:アートから得た発想を、洋服作りの技法でプロダクト化してるのが面白いですよね。

W:あとはイッセイ ミヤケ独自の実験的な解釈で作られるアイテムって、他では見ないカッコ良さがありますからね。だから固定のファンがいるのも納得です。

R:HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEのアイテムもですけど、イッセイ ミヤケの洋服って裁断が特徴的なので身体が動かしやすいんですよね。

T:つい先日ご逝去されたタイミングで三宅一生さんの言葉を色々読んだのですが、一生さんのそういう思想がこのアイテムにも反映されているような気がしますね。

R:常に実験的なことに挑戦してますよね。

異分野や異業種との出会いからさまざまな「ABLE」を生み出すA-POC ABLE ISSEY MIYAKE。このアイテムは、新進気鋭のデザイナー狩野佑真と取り組んだ実験的なプロジェクトで、狩野氏の代表作である「Rust Harvest|錆の収穫」からアイデアを発展させ、綿糸の太さと複雑な織組織で立体的な錆の表情を表現。5ポケットのジーンズへと昇華させた。

A-POC ABLE ISSEY MIYAKE
TYPE-IV Yuma Kano project ジーンズ ¥55,000
ISSEY MIYAKE INC.
TEL : 03-5454-1705



COMOLI

3レイヤー コットンシルクパーカ

“マウンテンギア的なアイテムを、コットンシルクで作る発想がすごい”(武井)

R:裏側にフィルムを貼っているコットンシルクパーカーです。ナイロンのミリタリーウェアにも見えるんですが、シルクを使っている分すごく上品な雰囲気がありますよね。

T:マウンテンギア的なアイテムを、コットンシルクで作る発想がすごいし、技術的にもそれを実現させるところにCOMOLIの勢いを感じさせられます。

W:何でこの素材で作ったのか、理由を知りたい。毎シーズン生地とかシルエットを変えて出してるのかな?汎用性に優れたデザインだから、COMOLIのファンはもちろんだけど、それ以外の人たちも着られそう。

T:大人がこういう良いプロダクトを着てるとカッコイイですよね。しかもナイロンと思いきや違うみたいな。

W:人から「その素材何?」って聞かれて、「コットンシルク」って言いたい(笑)。通気性を考えてのことなのかもしれないけど。しかも雨を弾いてくれるなら旅行のときにも良さそうだし。

R:この絶妙なブラウンカラーも良いですね。

COMOLIが毎シーズン、ディテールや素材を変えながらリリースしている定番的なアイテム。今回はUSミリタリーのECWCSパーカにマウンテンパーカをミックスしたようなデザインを採用し、前シーズンよりもひと回り大きいサイズ感に。表面はブラック×ブラウンのコットンシルク、裏面に撥水フィルムを貼るという、通常では考え付かないような技法を採用。

COMOLI
3レイヤーコットンシルクパーカ ¥154,000
WAG, Inc.
TEL : 03-5791-1501



Comme des Garçons Homme Plus × Nike

NIKE AIR MAX 97

投資目的にスニーカーを買ってる人には履いてほしくない(渡邊)

R:Air Maxでは今回が3回目のコラボレーションです。褪せてる部分がレザーで、刺繍部分はシューズのカラーリングと同色で仕上げています。

W:これショーで履いてたやつだよね? ぱっと見でComme des Garçonsのロゴがないのが良い。

R:ちなみに値段は¥41,800です。

T:レザーを使って、Comme des Garçonsとのコラボだったら妥当なプライスだね。そしてComme des Garçons Homme Plus × Nikeって、不思議と価格が高騰しなくて普通に履いている人が多い印象。

W:前も言ったかもしれないけど、ギャルソンの別注スニーカーってコーディネートの中に組み込む前提でデザインされてるから、デコラティブなものを好むスニーカーフリークにはピンとこないのかも。

R:こういったシューズは合わせるのが難しいですもんね。

T:Comme des Garçonsのシルエットのパンツと履くのが想像できますよね。

R:モノトーンのスタイルにハマりそうです。

W:これだけ有名なブランド同士のコラボだけど、知る人ぞ知る人のための一足だね。有名なスニーカーショップで投資目的にスニーカーを買ってる人には履いてほしくない。

継続的にコラボレーションを行なっている両者。今回はNikeの名作のひとつ、Air Max 97をアレンジ。表情のあるレザーを特徴的な波打つアッパーに取り入れることで、原型モデルらしさはそのままに新たな表情を引き出している。

COMME des GARÇONS HOMME PLUS
NIKE AIR MAX 97 ¥41,800
COMME des GARÇONS
TEL :  03-3486-7611



TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.

terry balaclava.

“「付けフード」みたいな感じですね”(来田)

W:品名は“balaclava.”だけど、取り外せるフードとかネックウォーマーっぽいよね。

R:たしかに“付けフード”みたいな感じですね。

W:今季のTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の色々な洋服に合わせられるんじゃない? 同じカラーバリエーションのダッフルコートとかニットとかあったし。

T:買う発想になりにくいアイテムだけど、一つ持ってると便利かもしれませんね。

W:アウトドア好きな人には重宝するんじゃないですか?

R:今シーズンは他にもバラクラバをリリースしてるブランドが多かったです。

T:そう言えばシルク製のバラクラバをどこかのブランドが出してましたね。

R:知り合いが付けフードを着けて自転車に乗ってて、すごくカッコいいなって思いました。

W:自転車に乗る人はマスクの代わりになって良いんだろうね。

アイテム名ことバラクラバ(目出し帽)だが、パーカのフードを取り外したようなデザインで、被るだけでなくネックウォーマー的な使い方も想定できる。数箇所に通したスピンドルと複数個配置されたアイレットデザインも特徴的。光沢感のあるスーピマコットンを使用し、度詰をしたオリジナルの60/2裏毛を用いるなど、その素材使いにも抜かりなし。

TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.
terry balaclava ¥21.890
TAKAHIROMIYASHITATheSoloist. Aoyama
TEL : 03-6805-1989



(左から) 渡邊敦男(『PRODISM』編集長)、スタイリスト 来田拓也、武井幸久(HONEYEE.COM)



渡邊敦男(『PRODISM』編集長)

1973年生まれ。『Asayan』、『Huge』などの編集を経てフリーランスに転身。2013年にプロダクトにフォーカスした雑誌『PRODISM』を創刊し、現在も編集長として活動中。メンズファッション、スニーカー、ストリートウェアに通じており、独自の美学を持つ。

スタイリスト 来田拓也

1986年生まれ。甲斐弘之氏に師事し、2012年に独立。メンズファッション誌を中心に活躍。トレンドを敏感に取り入れたプロダクトスタイリングにも定評がある。現在アシスタント募集中。

武井幸久(HONEYEE.COM)

1972年生まれ。雑誌『EYESCREAM』の編集者を経てHONEYEE.COMの編集長に就任しつつ1年で退任。フリーの編集者、クリエイティブディレクターとしてブランドサイトやメディアの立ち上げに携わり、2021年秋にHONEYEE.COM編集長に出戻り就任。