和島“Wazzy”昭裕に聞くWeb3.0とNFT 前編
デジタルファッションは究極のサステナブル?
NFT、Web3(3.0)といったキーワードを毎日のように見聞きするようになったのは昨年からだ。関連書籍は書店に平積みされ、アートやエンタメの世界で粛々と広がりを見せる一方で、ファッションシーンはまだまだこれからといったところ。今回HONEYEE.COMでは、日本でファッション×NFTを仕掛けるスタートアップ企業、KREATION,Inc.のファウンダーである和島“Wazzy”昭裕氏にインタビュー。その濃く深い内容を前・中・後編の3回に分けてお伝えする。通して読めばファッションNFTにも俄然興味が湧く短期連載。初回はデジタルファッションの現在について。
Interview & Text Yukihisa Takei
Photo Kiyotaka Hatanaka
和島“Wazzy”昭裕
1974年東京生まれ。KREATION,Inc.代表取締役(COO / FOUNDER)。アメリカ・アリゾナ州立大学建築学部を卒業後、サザビーリーグ、楽天を経て、2014年にファーフェッチジャパンの立ち上げに従事。HYPEBEAST JAPANの日本法人社長を務めたのち、2021年にKREATION,Inc.を立ち上げる。メンズファッションとNFTやWeb3.0に高い知見を持つ。
Twitter: @wazzykreation
Instagram: @wazzykreation
「フォートナイト」で知った巨大なマーケット
― Wazzyさんは、いま色々なNFTプロジェクトを仕掛けていますが、いつ頃その存在や面白さに気づいたんですか?
Wazzy(以下W) : 2021年ですね。ビットコインが値上がりしていたり、NFTが来ていることは分かっていたんですが、自分の子供の影響で、ゲーム「フォートナイト」の中でスキン(衣装)を変更してアバターとして使えるマーケットがめちゃめちゃ大きいことに気づいたのが大きいです。全世界で1ヶ月に300億円分くらいスキンが売れているし、息子からもお小遣いは「フォートナイト」で流通しているV-BUCKSという通貨で欲しいと言われたりして(笑)。
https://www.instagram.com/fortnite/
― そんなことになっているんですね。
W : 「フォートナイト」は、基本的にフリートゥプレイで、誰でも0円から始められます。自分のアバターのスキンを変えることができるので、みんなそこに課金し始めるんです。
― そこにファッションの可能性を感じて。
W : はい。でも「フォートナイト」は、EPIC GAMES社内のグラフィックデザイナーがスキンを作っているようです。僕らはそれをファッションデザイナーがやったらどういう仕事になるのかトライしたかったんですが、一部タイアップ以外にはほとんど開放されていないんです。ただ、今の10代とか20代の子がリアルの服にあまりお金を使わなくなっている昨今、「こういうデジタル商品は今後ファッションのマーケットでも重要になる」という前提に立ちました。NFT開発は結果でしかないというか。
リアルな服、メタバースの服が逆転?
― いまの10代、20代がリアルの服にあまりお金を使わなくなっているのはどういうことですか?
W : 多分いまの若い世代って、そもそも服に飽きている子たちも多いんだと思います。ゲームとかサブスクリプションなど、服以外に使うお金が増えている。そしてファストファッションで安くて良いものが手に入ってしまう。
― 熱心に服を探さなくても、それなりの格好にはなれてしまう。
W : そして彼らの世代は、リアルで自分を着飾るような服を着ることと同じくらいそれをメタバースで着るのがクールな自己表現なんです。感覚的にそこは僕らの世代とはまったく違うと思います。
― でもWazzyさんはリアルクローズがお好きですよね(笑)。
W : そうですね(笑)。僕自身はやっぱりリアルな服は好きで買います。ただ、そういう新しいものを示していくような立場に自分がいるので、自分でもデジタルの方も所有します。
― 今がちょうど時代の境目なんですね。
W : 先日息子が「フォートナイト」で「このスキンかっこいい!」と送ってきたのが、Jordan Brandだったんです。ジャンプマンのマークがついたスキンで。後日Jordanのキャップを買ってあげたら喜んで。彼はJordan Brandも知らなくて、メタバースで知ってクールだと思った。そして今度はリアルのJordanを手に入れて喜んでいる。若い世代が服を買わないのは、飽きているところもあるんですけど、デジタルで先に知って、リアルを知るという風に、順番が変わってきているんですよね。
― 面白い。息子さんは「Jordan Brandってリアルにあるんだ」と。
W : リアルを所有する楽しみやエンターテイメントはもちろん残るんですけど、タッチポイントは変わりつつあります。
デジタルファッションは「究極のサステナブル」
― Wazzyさんはファッション業界歴も長いですが、ファッションそのものよりも、今後はファッションNFTの方が成長すると考えたところはあるんですか?
W : 単にファッション×NFTというより、メタバースのデジタルファッションとリアルファッションは親和性が高いと思っています。そのきっかけになったのはTRIBUTE BRAND(トリビュートブランド)というヨーロッパのサービスです。そのサイトに行くとデジタルの服を売っていて、80ドルくらいでそれを買うと「あなたの写真を送ってくれ」と言われます。その写真に、購入した服を着たグラフィックの加工をして送り返してくれるというもので、それが商品なんです。
TRIBUTE BRANDのサイトより抜粋
https://tribute-brand.com
― 面白い。でも所有はできないわけですね。
W : でも画像データとして“所有”はしているし、それをインスタに投稿することができる。生産はされていない、現物はないけど、通常ファッションを買うユーザーの欲求は満足させているのがポイントです。今のファッションの文脈では、コレクションを発表して、展示会をやって店頭に並んで、買った人が自分で着用写真を撮って、それを遅かれ早かれ廃棄する、という一連のプロセスがありますよね。でもこれは「はじめと終わり」だけなんです。
― なるほど。
W : しかも2次元では実現できないクリエイションができる。重力関係ない、ファブリック関係ない、要するにグラフィックとリアルの間、2Dと3Dの間です。これってすごく新しくて。なぜかというと、今のファッションの潮流の一つに、「サステナブル」がありますが、これは究極のサステナブルファッションなんです。つまりファッションブランドは洋服を作らなくてもいいところまで来てしまった。この仕組みは既存のハイブランドであっても成立するじゃないですか。
― KREATIONでも2021年からファッションコラボのNFTを発行しました。その流れはどのような感じだったのですか?
W : Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨットクラブ)というNFTのコレクションが2021年3月に立ち上がって、OpenSea上のフロアプライスが1体1000万円とか2000万円ついたというところから、NFTが本格的に活況になりました。CryptoPunks(クリプトパンクス)という初のアートNFTも盛り上がっていたし、マーケットの急激な拡大と仮想通貨の値上がりがリンクしはじめたので、これはかなり来るぞと思いました。
https://boredapeyachtclub.com/
https://www.instagram.com/boredapeyachtclub/
― それで既存のファッションブランドに声をかけて。
W : はい。TENDER PERSON、Maison MIHARA YASUHIRO、TAAKKさんに3Dのスキンを作って欲しいとお願いしました。彼らが絵型を作り、それを3Dのパターンにして組み合わせる技術でグラフィックのモデリングをしましたが、これはファッションデザイナーの仕事とは全く違うなと思いましたね。多くのファッションデザイナーって、デジタルのシステムに組み込まれていないんです。それはプライドなのか、フィールドが違うからなのか分からないけど、そこの間を埋めるのって僕らしかできないと気づいたのが2021年初頭でした。
https://www.instagram.com/boredapeyachtclub/
https://www.instagram.com/kreationdigital/
(中編に続く)