和島“Wazzy”昭裕に聞くWeb3.0とNFT 後編
いま注目すべきはPFPのカルチャー
NFT、Web3.0とファッションの関係を掘り下げる短期連載の最終回。拡張するメタバースと、これからさらに注目されるPFP(プロファイルピクチャー)について。
Interview & Text Yukihisa Takei
Photo Kiyotaka Hatanaka
和島“Wazzy”昭裕
1974年東京生まれ。KREATION,Inc.代表取締役(COO / FOUNDER)。アメリカ・アリゾナ州立大学建築学部を卒業後、サザビーリーグ、楽天を経て、2014年にファーフェッチジャパンの立ち上げに従事。HYPEBEAST JAPANの日本法人社長を務めたのち、2021年にKREATION,Inc.を立ち上げる。メンズファッションとNFTやWeb3.0に高い知見を持つ。
Twitter: @wazzykreation
Instagram: @wazzykreation
NIKEがメタバースを作る?
― いま色々な企業やブランドがメタバースへの進出を考えていますよね。これはグローバル化の流れのひとつにあるんでしょうか。
W : 今ってグローバルでビジネスをするのは、簡単になったところもありますが、大変な時代でもあるんです。コロナのようなウイルスは次もきっと出てくる。上海がロックダウンすれば日本のブランドのデリバリーが2ヶ月遅れる。ウクライナとロシアが戦争をすれば、ブランドが撤退する。リアルの世界は予測のできないファクターが多すぎるので、リスクが大きいんですよ。
― 確かにそうですね。
W : でもデジタルの場合は時差と言語の問題はあれ、基本的に国という概念がないので、デジタルの世界ではローカル / グローバルの概念がなくなっていくんです。だったらビジネスをメタバース上でやった方がいいよねという流れです。
― なるほど。やはりメタバースへの流れは必然なんですね。
W : たぶんこの先3つか4つのメタバースが、10年20年の覇権を取るはずで、現在は争っている最中です。そしてそのひとつがNIKEになるんじゃないかって言われているんです。
― NIKEメタバースですか?
W : 今のSNKRSなどはプライベートなコマースですが、NIKEのメタバースが出来て、今よりゲーム性やエンタメ性を持たせると、一気に体験型のEコマースが完成します。要するにブランドと遊ぶという感覚ですね。その中でスニーカーを買うとか、ファッションを買うことが付帯的になるのが将来のファッションビジネスになると思います。そう遠くない将来NIKEが独自で立ち上げるんじゃないかと。
NFTでブランドが若返る理由
― 今後ファッションブランドは、リアルの物も売るけど、同時にメタバース上のものもやっていくのが普通になりそうですね。
W : 特にいまの10代、20代の層にアプローチするにはメタバースが課題になってくるでしょうね。なぜなら多くのブランドの課題は「顧客の若返り」なんですよ。ブランドって30年くらいで入れ替わるじゃないですか。今はWeb3.0から出てきているブランドの方が、若い世代にとってはクールなんです。おじさんたちが着ている服のNFTなんてクールと思わないという感覚のギャップ。なので、メタバースやNFTをやっていかないと若返りは難しいし、逆にそれができれば新しい顧客層を獲得できる。
― メタバースの中で遊んでアバターが着る服を買う。さらにリアルでも靴が届くみたいなことですね。
W : はい。NFTとリアルアイテムを同時に所有するというのは、これからのファッションのトレンドの一部になっていくと思います。
PFPコレクタブルな時代がやってくる
― KREATIONやWazzyさんの今後はどのようなことを仕掛けていくのですか?
W : あるリテイラーさんと組んで10月中に THE HOUSE OF INSOMNIA という仮想通貨決済のクリプトファッションストアをオープンします。年内に順次誰もが知っているファッションブランドさんとのコラボレーションも準備中で、すべてPFPをベースにしています。
― PFPとは何ですか?
W : Web3.0時代に匿名性が重視される中でのプロフィール画像をPFP(プロファイルピクチャー)と言うんですけど、それがソーシャルメディアの個々の看板になるのは、どこまで行っても必要なんです。自分のセルフィーをPFPにするというのがダサくなる時代がWeb3.0で、PFPを個人で何枚も所有して、その日のムードで変更するっていうのは、かなりファッションの用途と似ているなと感じます。僕らはPFPをカルチャーと定義して、そのカルチャーを推し進めていくことをコーポレートビジョンとしています。
― そのPFPは何に使うのですか。
W : たとえばVTuberのスキンとか、ゲームのアバターとかもありますが、注目はツイッターです。ツイッターのアイコンは自分のNFTのウォレットを接続することで所有しているNFTが選択可能になり、それをセットするとアイコンのフレームが丸から六角形になります。このサービスはアメリカなどではすでに始まっていて、WEB3.0の界隈ではかなり普及し始めています。(日本でもまもなく実装予定) WEB3.0はなりすましや詐欺も多く匿名性が重要視されますから、ただのスクショをPFPにしていると自分のアカウントはいつでのコピーされてしまう。そこでスマートコントラクトで唯一無二のものと証明されているNFTを連携することで、匿名性を保ちながら個人の特定が可能になる。NFTをスクショしてPFPに設定してもフレームが六角形じゃなく丸のままだったらそれはNFTではいとすぐわかるので便利です。
― 今はピンと来ないけど、Web3.0で匿名化が進んだ先にそれが象徴的になるんですね。
W : ツイッターだけではなく、僕らはいくつものSNSのアカウントを持っているし、裏アカを持つことも今の若い世代では当たり前。そう考えるとPFPが個人の自己表現になっていくのは明白で、自分がどういうPFPを選ぶかが、≒ファッションになっていくと思います。例えばBored Ape Yacht Clubや MoonbirdsなどのNFTを自分のPFPにしている人は、「自分はこのプロジェクトのファウンダーの思想に共感するし、このコミュニティーをサポートしている!」 ということを自己表現しています。それってファッションにもめちゃくちゃ似ていて共通点があって、NFTとの相性も良いと思うんです。結局ファッションって、時代時代をその瞬間に切り取った断面みたいなものもので、あくまでも服は二次的なものなんですよ。
― だからカタチは変われども、PFPもファッションになり得ると。
W : むしろ僕らはNFTを新しいカルチャーとして考えてやっています。カルチャーの中にはクリエイターがいて音楽があって、アートがあって、リアル商品がある。その全体をパッケージするのがカルチャーをドライブさせる方法だと思ってるので、まずはPFPを買ってくれた人に、リアルなものをおまけで送るという形を考えています。
― HOUSE OF INSOMNIAはブランドというよりはショップになりますか?
W : その両方で、よく言えばKITHみたいなものです。KITHはセレクトであり、ブランドでもあるじゃないですか。僕らが買い付けしたPFPも販売していくし、いろんなクリエイターとマッシュアップもする。NFTってそれくらいライトなものでいいんじゃないかなという啓蒙活動をしている段階ですね。
― これからも注目していきたいと思います。
W : まだまだ認知もないので、THE HOUSE OF INSOMNIAのステッカーも作って、駒沢公園でイケてるスケーターに配ったりしているんですけど、「メタバースってなんですか?Wazzyさん」って言われている段階(笑)。まだまだ時間がかかるなと思いますね。
― メタバースやNFTと言いながら、リアルでステッカーを配っているのがいいですね(笑)。
[編集後記]
Wazzyさんと出会ったのは、自分が2年ほど前にHYPEBEAST JAPANのお手伝いをしていた時だ。最初に会った時に「僕は一生ファッションの世界を続けますよ」と話していたのが印象的だった。現在は日本のファッションシーンにNFTやWeb3.0の概念を持ち込もうとしているWazzyさんとは実は何度も飲みながら話を聞いていたが、現時点で彼ほどこの現象をクリアに話せる人はいないと思って取材をオファーした。「NFTやWeb3.0なんて分かんないし!」と思っていた自分のような人に読んでもらえたら嬉しい。(武井)