デスティネーション・ストア | File 020
2023.07.21

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 020 : TRAVIS(東京都・恵比寿)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 020は恵比寿の住宅街にひっそりと佇む古着屋「TRAVIS」をご紹介。

Text Takaaki Miyake

映画から始まった古着屋のストーリー

とある展示会の帰りに恵比寿駅へ向かう道すがら偶然通りかかり、外からでも店内に飾られた映画ポスターに目を引かれ、思わず立ち寄ったのが古着屋の「TRAVIS」だ。店主のハラダユウキさんは話を聞けば予想通り、年に数百本を鑑賞する大の映画好き。しかし意外にもこれまで映画業界に身を置いた経歴はなく、過去にはセレクトショップや日本のコレクションブランドで10年以上もスタッフとして勤めた経歴を持つ。

今年初めに現在の物件スペースを決め、ドイツ、フランス、イギリスへ初の買い付けなどを経て、満を持して2023年3月にオープンしたこのお店には、「映画館に着て行く洋服を集めた」という、なんともユニークなコンセプトが存在する。例えばウディ・アレンの映画を観に行くならツイードジャケット、新作の映画でもティーザーからテーマカラーを見出して洋服を提案する。この独特のアイデアは原田さんも普段からこうやって洋服を選んでいるからだという。

「たとえデザインが気に入って買った洋服も、結局はどこへ着ていくかが重要だと思うんです。なので買い付けもこのフィルターを通してセレクトをしています。古着との出会いは今改めて思い返すと、中学生のころです。ある日友人に誘われて行ったのが地元の神戸にある古着屋で、偶然にもそこが取り扱っていたのが『TRAVIS』と同じヨーロッパ古着だったんです。それがファッションに興味を持ったきっかけであり、今やっていることの原体験なのかもしれませんね」

きっかけはあの名作

ファッションへの興味を抱きつつも、原田さんはある時期から段々と映画の世界に魅せられていったと話す。そこでまず初めに強く影響を受けたのが、ファッション業界でも言わずと知れたソフィア・コッポラのあの代表作だ。

「関西の専門学校に通い始めてから、学校の近くにあった映画館に足を頻繁に運ぶようになったんです。最初の頃は『お洒落な映画をディグってみよう』ぐらいだったのですが、なんとなく観た『Lost In Translation』が自分の中では、“答えのない映画”と初めての出逢いで衝撃的でした。舞台が東京だったこともあって、その頃からぼんやりと上京したい気持ちも同時に芽生えてきました」

そこから映画にのめり込むにつれ鑑賞する作品数も自然と年々増加し、2021年にはなんと500本、しかも93本を劇場で観たという。

「映画館に行くことが少しでも映画関係者の方への恩返しになればという想いがあります。以前、映画監督の行定勲さんから試写会にご招待いただいたのですが、ちょうどパンデミックの時期だったので行けなかったんです。その後、改めて自分で一般公開の時期に行ったことをご本人に伝えたら、すごく丁寧に感謝を伝えられ、すごく感激したんです。それ以降はより一層、映画館に足を運ぼうという気持ちが強くなりました」

今はまだ映画館のロビー

『Lost In Translation』に次いで心を動かされ、今では原田さんのバイブル的作品が、主人公の名前を冠した店名の由来にもなった『PARIS, TEXAS』だ。初めて同作品に触れた20代前半では特に惹かれたわけではなく、その約10年後に観た2回目ですっかり心を奪われた。

これを機に映画と密接な人生を送るため、映画館を開きたいという気持ちが徐々に募ったが、原田さんはあえて古着屋をスタートする別の道を歩んだ。

「この『TRAVIS』は単なる古着屋ではなく、実は映画館のロビーとしても捉えているんです。ロビーってポスターを飾ってたり、物販もあったりするので、それをイメージしています。場所もなぜここなのかよく聞かれるのですが、恵比寿ガーデンシネマと目黒シネマが個人的に好きなので、どちらかに行かれる方が前後で来てくれるような場所になりたかったんです。映画館を始める前の段階として、今はまだロビーを運営しているという意味合いも込めています」

目指すのは名画座スタイル

いつかは昔の作品をセレクトした二本立てで上映する、名画座スタイルの映画館を開く夢を持つ原田さんが構えるこの店には、当然多くの映画好きが通う。

「やはりウチにはヴィンテージアイテムを探しにいらっしゃる方は少なく、映画好きで来店される方がほとんどです。話もやはり盛り上がるので、数時間滞在される方も珍しくないです。最近観に行った映画について話に来てくださる方もいらっしゃいますし、それが理想の形です。それでもし好きな洋服を見つけてもらえれば、それで次回また映画を観に行ってもらえると嬉しいですね」

映画好きはもちろん、最近映画館から足が遠のいているという人も、鑑賞前の身支度がてら「TRAVIS」を訪れてみては?

DESTINATION STORES | File 20
トラヴィス | TRAVIS
東京都渋谷区恵比寿3丁目6−2
営業時間 : 不定休(Instagramを参照)
https://instagram.com/travis_yebisu