デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
File 021 : same gallery(東京都・品川区荏原)
スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 021は2023年4月にリニューアルオープンを果たしたギャラリー「same gallery」をご紹介。
Text Takaaki Miyake
歩けば都?住宅街に佇むギャラリースペース
最寄駅をあえて挙げるならば武蔵小山、西小山、荏原中延、旗の台という比較的マイナーな駅が名を連ね、そのどこから歩いても10分以上はかかってしまう。本企画の醍醐味とも言えるそんな場所に位置するのが、今回フィーチャーする「same gallery」だ。クリエイティブディレクターの長谷川踏太さんと、アーティストの嶌村吉祥丸さんが発起人とし て、2020年3月にオープンしたこのギャラリーは、オープン時から話題に欠くことがなかった。
「Bring Your Own Art Party」と題したオープニングエキシビションでは、来場者が自身の所有するアートを持ち込んで展示する、アート展の新たな手法を示した。さらに2度目の展示「盗めるアート展」はその名の通り、来場者が展示作品を自由に持って帰る(盗む)という驚きの内容。盗まれる前提ではアーティストはどのような作品を展示するのか、鑑賞者と作品の関係性などを探った本展は、かなりの反響を呼んだ。このユニークな展示を皮切りに、これまでも積極的に企画展を開催してきた「same gallery」だが、その原点はどこにあるのか発起人の一人である嶌村さんに話を聞いた。
嶌村:same galleryを立ち上げる前に、別のギャラリーの立ち上げから運営までに2年ほ ど携わっていた時期がありました。貸しギャラリーとしての機能は基本的にはなく、純粋にキュレーションされた企画展だけを行っていました。same galleryのフォーマットも基本的には同じで、利益を度外視した企画や本当に面白いと思ったことだけをやるというスタンスは当時ギャラリーを運営していた体制を引き継いでいるとも言えると思います。
「盗めるアート展」に関しては、結果としてアートの領域を超えて様々な議論を生む展示となりました。SNS上で情報を得て、単に話題性を目的にした方々の来場も多かったですが、本当にアートの企画展としての趣旨が面白いと思ってくれた層と、その周辺の層。さらには展示終了後にメルカリで作品が転売されるなど、一つの展示に対して様々なレイ ヤーを見ることができました。
町工場から姿を変えて
スペースを構えるのはたしかに住宅地だが、昔ながらの町工場が点在するのもこのエリアの特徴で、「same gallery」も町工場とその宿舎だったという建物に入居している。あえてこの場所を選んだ意図はあったのだろうか。
嶌村:元々地元がこの辺りなので、このエリアに対して馴染みはありました。SNSと密接な今の時代では、高い家賃を払って駅近に構えるよりも、アーティストに対してより良いスペースであったり、経済的に囚われない運営ができる方が良いなと思っていたところ、この物件と偶然出会いました。もちろん駅から近い方が利便性は良いかもしれませんが、都心からのアクセスもそこまで悪くはないので、来れない距離ではないと思っています。元々町工場の建物は、天井が高く1Fの道路面に面しているため、ギャラリーをやるには向 いている構造をしていました。
ただし展示を一つ開催するにしても、ギャラリーまで足を運んで、さらにそこで”良い体験”をしてもらえることが大切だと思うので、都心部のギャラリーではやっていないような実験的な展示や、「same gallery」ならではの視点で企画・キュレーションをできればと考えています。加えてギャラリーの在り方についても、資本主義的な要素も含めて、既存のギャラリーとは違った運営体制やフォーマットも確立してきたいです。
クリエイティブのハブとして
そして今年の4月から運営に加わったのが、嶌村さんと同じく写真家である丹羽惠太朗さんだ。現在「same gallery」では1階が企画展を行うギャラリースペース、2階はアーティス トや編集者などのメンバーが作業を行うワーク兼コミュニティスペースになっている。今回のリニューアルのタイミングで、2階部分の再始動を図った。
丹羽:4月に参加した際に、僕の周りのキュレーターやデザイナーの友人に声をかけて、今では約10人ぐらいで運営している状態です。元々出入りしていたメンバーもいたのですが、少し曖昧になっていた部分もあったので、そこを分かりやすく整理した意味合いもあります。運営と言っても抜けたり入ったりは自由ですし、メンバーはそれぞれの距離感でギャラリーに関わっていて、流動的で緩やかなコミュニティになっていると思います。
嶌村:リニューアル前は2階部分が2つの部屋に分かれていたのですが、それを1つのスペー スにしました。仕事をしている人、遊んでいる人、読書している人、ただそこにいる人...。それぞれの過ごし方が混在しながらも、ゆるやかに繋がっているぐらいのバランス感が心地よいかなと思い、空間を1つにしました。また、1階のギャラリースペースは元々の町工場を思わせるような剥き出しの床面だったのですが、リニューアル後は床面と壁面共によりミニマルな仕様になりました。
年代も専門分野もバラバラなのに、同じスペースを拠点にしながらもフラットでいられる場所はなかなかないと思うので、お互いにリスペクトを持ってそれぞれの感覚でこの場所を使ってくれることで、ただのコワーキングスペースや共同アトリエとは違った人間関係や、その場を共有する人たちの化学反応で、何か面白いことが起こればと思っています。
same galleryのこれから
最近では目的地としてだけでなく、近隣のクリエイティブな他のスペースやコミュニティが連携するなど、ハブとしての機能も「same gallery」が担っているのを実感しているという。
嶌村:ギャラリーをオープンして以来、積極的に近隣の様々な場に足を運んでいるのも理由の一つですが、アーティストが「same gallery」のある荏原エリアに引っ越してきたり、近くにアトリエやショップがオープンしたりと、点が段々と面になってきている感覚があります。
僕個人としては仕事柄たくさんの方とお会いする機会があり、また「same gallery」としても、フィジカルな場として色々と仕掛けているとは言えど、僕らのコミュニティだけでできる活動や発信にも限界があると思います。
僕らの活動が、別のコミュニティや東京以外の場所でも誰かにとって1つのモデルケー スとして参考になれば良いなと思っています。僕らが発信している“匂い”を外側から感じ とってもらって、何か新しい動きや形のきっかけや動機になれば嬉しいです。また、同じ” 匂い”を共有できるスペースやコミュニティ同士が連携しあい、国内外を問わずクリエイティブをベースとしたアート・教育・ファッション・音楽など様々なジャンルの人・もの・ 空間がネットワークを形成できるような仕組みを考えていきたいと思っています。
丹羽:“色々な人が集まれる場所”というのが今後も主軸になります。2階はクリエイティブ のハブとして、1階は「ここに来れば面白いモノが見られる」という確信を持ってもらえるのが理想ですね。そういった想いで僕らも企画を組んでいるので、実現できるようにしていきたいです。
常に色々なジャンルのクリエイティブ業界に身を置く人とたちが、一つ屋根の上で集う場所。駅から遠くともついつい足を運びたくなるエキシビジョン。その両軸こそが「same gallery」たる由縁なのかもしれない。
DESTINATION STORES | File 21
セイムギャラリー | same gallery
東京都品川区荏原4丁目6-7
営業時間 : 不定休(Instagramを参照)
https://www.instagram.com/same_gallery/