デスティネーション・ストア | File 027
2023.10.27

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 027 : AOR(東京都・青葉台)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 027は大通りからは少し隠れた、音と服とが共存するお店「AOR」をご紹介。

Text Takaaki Miyake

音楽からファッションへの歩み

AOR

レコードブティック「Adult Oriented Records」発のファッションブランド Adult Oriented Robes が、2023年10月7日(土)にコンセプトストア「AOR」をオープンした。場所は中目黒駅と池尻大橋駅の間、目黒区・青葉台のビルの一角に入居する。

Adult Oriented Robes のデザイナーである弓削匠さんは、元々ミュージシャンを志しながらも10代の頃に一度挫折を経験。それでも音楽へ再び繋がる道を追い求めた結果、ファッションデザイナーという職業を選んだ。そして2000年から自身のブランド Yuge をスタートし、2016年秋冬シーズンを最後にブランドは休止することとなった。

「Yuge の最後の数年はきちんとクリエイションをできているか、疑問やストレスを抱えていました。そこで充電期間も兼ねてブランドの休止を決断し、すぐに『Adult Oriented Records』を始めたんです。その頃はファッションへ戻って来ることはないと思っていましたが、キャリアの原点がファッションだったからか、やはり洋服を作りたい欲望に段々と駆られて Adult Oriented Robes を始動しました」

AORが唱える大人らしさとは?

AOR

タイミング的にも「Adult Oriented Records」が認知され始めたことで、そこから2020年11月に誕生したのが Adult Oriented Robes だ。レコードブティックから派生したブランドと聞くと、グラフィックTやフーディーなど、ストリート感が漂うマーチのようなアイテムをイメージしてしまうが、Adult Oriented Robes はその対極と言える。洋服からは大人らしさや都会的な洗練が醸し出されている。そこにも明確な理由があった。

「Adult Oriented Robes がコンセプトにしている、AORという音楽は80年代ごろに日本人が生み出した、Adult Oriented Rockというジャンルなんです。いわゆる大人目線のロックですね。それに則ったファッションを作り上げるとなるとある程度、洋服もシンプルかつ洗練されていきました。

一方で単に懐古主義的にはならないように常に意識をしていています。80年代当時のスタイルを現代なりの捉え方で解釈して、Adult Oriented Robes ではあくまで、“今”という時代にフォーカスをしています」

音楽との共存

AOR

ファッションブランドでありながらも、Adult Oriented Robes の根底にあるのは“音楽との共存”。シンプルゆえにカタチとして具現化するのは難しく、本質的に表現した例を見ることも少ないが、それを体現しているのが Adult Oriented Robes のユニークな仕掛けだ。

Adult Oriented Robes の洋服には、アイテム毎に“テーマソング”とも呼べる楽曲が振り分けられている。洋服を買うとタグに印刷されたコードから音源がダウンロードでき、オマケ的に音楽をコレクトできるのだ。さらに今後は集めた曲をまとめてレコード化できるサービスも考えているという。

楽曲には弓削さんが注目する若手アーティストの新譜を採用するなど、新たな才能を発信するプラットホームとしての役割も担っており、音楽レーベルも手がけるデザイナーだからこそ可能な、ファッションと音楽が共存する新たなお店の在り方を示している。

レコードでもカセットでもない、CDという選択肢

AOR

近年、セレクトショップでレコードやカセットを目にすることも珍しくないが、「AOR」の店内に並ぶのはカセットでもないコンパクトディスク、いわゆるCDだ。CDは SONY と Philips による共同開発で1982年10月1日に製品第一号が登場し、日本のタイトルでは大瀧詠一の「A Long Vacation」が製品第一号として知られる。​​

「1988年はレコードの国内生産が終了し、一気にCDへとシフト化した時代でした。その頃が最も多感な時期だったこともあり、僕自身もかなりのインパクトを受けましたね。それもあってCDへの思い入れが割と強いんだと思います。

実はCDでしか聴けない音源が現在でも多くて、ここで主に取り扱っている1988年〜92年にリリースされたものだけでもかなりの数があります。それでも今では一番忘れ去られているフォーマットなので、CDの再興に繋がればという想いでフォーカスを当てています」

AOR

加えて、90年代当時オフィスや自宅にあるとステータスとされた、Bang & Olufsen のCDプレイヤーを店内に展示。90年代の名機と現行品の両方をギャラリーとしてキュレーションし、時代を超えて再びCDカルチャーに触れられる体験も提供している。

AOR

さらに「AOR」では、ソウルミュージックの世界的レコードコレクターとしても知られる、アーティスト 永井博 のジークレー作品を常設販売。この世界初の試みは普段から親交のある両者の関係性から実現し、将来的には他作品の販売や原画の展示などの構想もあるとのことだ。

「AOR」が目指す姿を弓削さんは次のように語ってくれた。

「これまで“ファッション=若者のため”という考えが、どこか自分の中でもありました。ですが自分が年齢を重ねるうちに変化があって、同じ時代を生きてきた、同世代に刺さるようなことをもう一度できればと思っています。なので僕と同世代の人たちにも『AOR』へ足を運んでもらえると嬉しいですね」

音楽と洋服に対して、それぞれに真摯な姿勢で向き合ってきたからこそ作り出せる空間。また一つ魅力的なデスティネーション・ストアがこの東京の地に誕生した。

DESTINATION STORES | File 27
エーオーアール | AOR
東京都目黒区青葉台3-18-10 カーサ青葉台1F
営業時間 : 12:00〜20:00
https://adultorientedrobes.com/