デスティネーション・ストア | File 031
2023.12.22

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 031 : LAVENDER OPENER CHAIR・灯明(東京都・西尾久)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 031は少し懐かしい雰囲気が漂う荒川区・西尾久の旧小台通りにスペースを構える、“ギャラリー × 食堂”が一つの空間で楽しめる「LAVENDER OPENER CHAIR・灯明」をご紹介。

Text Takaaki Miyake

食も芸術も

LAVENDER OPENER CHAIR 灯明

東京では唯一の路面電車である都電荒川線は三ノ輪橋と早稲田間を結び、都内屈指のローカル線ながら今でも地域に根付く路線として知られる。「LAVENDER OPENER CHAIR・灯明」が位置するのは、そんな都電荒川線沿線上の一つである小台駅から徒歩4分ほどの、周辺には昔ながらの商店や銭湯が立ち並ぶエリア。アートと飲食とを掛け合わせたユニークなスペースを運営する冨樫達彦​​さんは、自身もアーティストとして活動しながらギャラリーの「LAVENDER OPENER CHAIR」では企画のキュレーションを、そして食堂の「灯明」では自らキッチンに入り仕込みから料理までを手がける“二刀流ぶり”を見せる。

店名は代々木のとんかつ屋で

LAVENDER OPENER CHAIR 灯明

元々は東京藝術大学で映像作品を軸に制作活動を行っていた冨樫さんは、修士課程を修了後に留学したオランダ・アムステルダムの芸大でファインアートを専攻した。卒業後は1年の滞在猶予があったものの、東京で活動することを心に決め帰国。そこからすぐにオープンの準備に取りかかったという。

「オープンのきっかけを強いて言うなら、日本に帰国して作家として制作をするからには『とりあえずスタジオを持ってみよう』とか、『どうせならスタジオにキッチンが付いてたら良いな』ぐらいの漠然な想いからでした。当時は仕事もまだないのにオフィスとも呼んでましたね(笑)」

ギャラリースペースである「LAVENDER OPENER CHAIR」では冨樫さんがギャラリスト目線ではなく、同じ作り手として自然と惹かれるアーティストの企画展を開催し、これまでドローイングや写真、陶器など様々なジャンルの作品を展示してきた。

ちなみにギャラリーの名前の由来を聞くと、冨樫さんは次のように教えてくれた。

「代々木のあるとんかつ屋で飲みながらお店の名前を考えていたら、ちょうど店内のイスが目に入ったんです。その色がラベンダーで、形は栓を開けるボトルオープナーに見えて。ショップカードにその店の写真を使っているので、すごく年季の入った店だと思われることも多々あります」

作るのはあくまで家庭料理

LAVENDER OPENER CHAIR 灯明

一方の「灯明」ではカウンターへ座る客へ食事の提供をしているが、ギャラリーと併設しながらもメニューは軽食の類ではなく、冨樫さんが一皿一皿丁寧に作る温かみを感じる料理の数々だ。

「田舎で育ったのに加えてゲームやアニメも禁止されていたので、小学校から帰るとお菓子を作ったり、家族のご飯を作るのを手伝ったり、アムステルダムでは寮生活で料理を友人にふるまったりしていたので、そう思うと料理は昔から好きでしたね。

僕は修行経験もないし、料理って主体性がないと説得力に欠けるので、僕が作るのはあくまで家庭料理です。山形出身なので送ってもらった野菜を使ったり、郷土料理をお出ししたりすることはよくあります」

LAVENDER OPENER CHAIR 灯明

修行をしていないからこそ自由な発想で構成される「灯明」のメニューには、ランダムに酢豚やグラタンが入ることも。新メニューは自身で試食する前に常連さんが味見をして、「美味しい」と言われればメニューに採用される。他にも別の飲食店で食べた味や、料理好きな友人から教えてもらったレシピなど、「灯明」には冨樫さんのこれまでの食と人生が凝縮されているのかもしれない。

制作と料理の関係性

LAVENDER OPENER CHAIR 灯明

当初は3年ほどの継続を目処にしていたという「LAVENDER OPENER CHAIR・灯明」も、2024年3月でオープンから4年目に突入した。

「飽き性なのにここまで続けてこられたのは、両方とも好きなことだからだと思います。『灯明』はたしかに得意分野を活かしたことですが、単なる資金作りではないからこそ、アーティストとしての作品発表やギャラリー運営のモチベーション維持に繋がっています。

『LAVENDER OPENER CHAIR・灯明』を始める前からですが、僕の作品も近年は味や香りを題材にすることが多いんです。今はすごく科学的な時代なだけに事実をすごく重んじる傾向にあるけど、もっと感覚を大事にしたいなと思っています。料理や味って些細なことだし、食べると形としては残らないけど、記憶を通して遺すことを考えていければ良いですね」

目的はアートでも食事でも、はたまたその両方でも、「LAVENDER OPENER CHAIR・灯明」へ行けば、現代で忘れてしまいがちな“何か”感じ取ることができるかもしれない。

DESTINATION STORES | File 31
ラベンダーオープナーチェアー・トウメイ | LAVENDER OPENER CHAIR・灯明
東京都荒川区西尾久5-2-18 ニューハイツ101
営業時間 : 17:00〜23:00(灯明は22:00ラストオーダー)
https://lavenderopenerchair.com/
https://www.instagram.com/lavender_opener_chair/
https://www.instagram.com/tohmei_diner/