GDC の新ライン project d が始動
2026.08.15

Text by Takaaki Miyake

アメリカンカジュアルを再解釈、熊谷隆志と神谷龍が描く新たなスタイル

90年代後半から日本のストリートシーンを牽引してきたスタイリスト、熊谷隆志によるGDC(ジーディーシー)。約四半世紀の休止期間を経て2025年に再始動を果たして以来、旗艦店のオープンをはじめ、国内外のブランドとのコラボレーションなど、さまざまな動きを見せている。

そんなGDCから今回、新たなラインとなるproject d(プロジェクトディー)がスタートする。

GDCの根幹にあるアメリカンカジュアルを改めて見つめ直し、ヴィンテージの知識をベースにしながら、より柔らかく、肩の力が抜けた服を提案するproject d。そのディレクションを担うのが神谷龍だ。

実は二人が出会ったのは、今から15年以上も前のこと。当時から、熊谷は神谷のスタイルに惹かれていたという。

なぜ熊谷は神谷に新たなラインを託したのか。そして、二人が考えるproject dとはどのようなものなのか。GDCの再始動を経た熊谷隆志と、project dのコンセプターを務める神谷龍に話を聞いた。

前回の取材は、GDCのブランド再始動直前でした。改めてブランドに対する反響や、熊谷さん自身の気持ちの変化について教えてください。

熊谷: もちろん新しいファンも多いですけど、GDCと一緒に年を重ねてくれた人たちが“柱”なんだということを改めて実感しています。リリースするアイテムやコラボレーションするブランドによって、手に取ってくれる年齢層が変わったり、どの層に刺さるのかも違ったり。この1年は実験的な動きを続けてきましたけど、結局は自分で着たいアイテムを作りたいじゃないですか。

そういった洋服を作ると、必然的にある程度のプライスになるので、手の届きやすい方は限られてしまう。でも、yutoriと組んでいることもあって、若い子に響いて買ってくれたりもしています。今のところ10代から70代まで、思ったより幅広い層にファンがいるように感じています。

一方で、あまりアプローチできていなかったのが、龍の抱えている層。だから今回の新ラインを任せたんです。

では、まずお二人の出会いについてお聞かせください。

熊谷: 最初に会ったのは、龍が中目黒の「JANTIQUES」でバイトしていた頃だから、15年かそれ以上だよね?

神谷: 18年とか、もう20年弱ですね。

熊谷: その頃からずば抜けて、すごくオシャレだったんですよ。

熊谷さんから見ても、神谷さんのスタイルは印象的だったのですね。

熊谷: 先輩たちのファッションをお手本にしながらも、自分が影響を受けてきたアメリカンカジュアルを、自然に“東京流”に着こなしていたからかな。

神谷さんは当時、どういったファッションスタイルだったのでしょうか?

神谷: 「JANTIQUES」で働いていたのもあって、結構ヘリテージなスタイルだったと思います。

そもそも、ファッションに興味を持ったきっかけは?

神谷:興味は昔からありました。ただ、仕事にするつもりはそこまで無く、最初は単にアルバイトを探していました。そこでたまたま見つけたGAP(ギャップ)に入ったのは、仕事にするきっかけの一つにはなったかもしれません。
当時はデニムにUGG(アグ)を合わせるような、すこし緩めのスタイルをしていました。当時は仕事と趣味を割り切ることができず、自分の好きなものとの微妙な乖離が気になってきてしまい、結局辞めちゃいました。
 
その後は、もう少しアメカジの芯を食いたいかもなと思って、アメ横にある「舶来堂」という革ジャンとブーツの店で働いたりもして。そこからしばらくして、中目黒をなんとなく歩いていたら、「JANTIQUES」がバイトを募集しているのが目に入り、応募をして働くことになりました。

そこで熊谷さんとも出会うことになって。僕らの世代って、ファッションブランドに対してというより、スタイリストへの憧れがすごく強い世代なんですよ。そういったスタイリストの方たちに毎日のようにお会いできる「JANTIQUES」での日々は、すごく刺激的でしたね。

そこから現在につながるまで、お二人の関係性はどのように続いていったのでしょうか?

神谷:一気に加速したのは、この2〜3年ですかね。別の現場での仕事で一緒になるタイミングがあって。

熊谷:だけど、その前にも度々会っていたよね。龍の私服のスタイルが本当にずっと好きだったから。頭のてっぺんから足の先まで、いつも考えていないようでちゃんと考えているなって。

それは感じていたんですか?

神谷:いや、全く(笑)。

熊谷:若いのにマイフリーダム的な軸もあって。僕は割とルールとか気にしないけど、アメカジのイロハが頭の中に入っていないと、龍みたいなファッションはできないから。

その頃から、いつか一緒にブランドをやる構想などはあったのでしょうか?

熊谷: ガチガチな仕事っていうよりも、龍に「洋服のブランドをやらせたいな」というのはあったかな。GDCのチーム内でも、龍の名前は何度か出すこともあったけど、タイミングがなかなか今までなくて。

実際に新ラインをスタートするに至った、直接的なきっかけはあったのでしょうか?

熊谷:実はGDCの復活時には、すでに話を進めていて。GDCの代官山店の近くに5坪くらいのスペースが空いていたから、龍に「そこでブランド始めたら?」って言ってたんだよね。

神谷:けど実際には、ゼロから新しいブランドを立ち上げるのは難しいなって。それよりもGDCの中の1ラインとしてのほうが、自分も活躍できるかなと。

熊谷: ちなみに龍は英語でDragonだから、project Dragonでproject d。ブランド名も、そのくらい気を張らないほうが良いかなって。

では、project dのコンセプトやテーマがあれば教えてください。

熊谷:僕は完全に、龍にお任せしているので。

神谷:GDCにも多少あると思うんですが、自分のベースがヴィンテージなので、そのエッセンスを普段より多く入れられたらいいのかなと。ただ、結局それだけだと既視感のあるリプロダクトのアイテムになってしまうので、もう少し柔らかい雰囲気で作っていきたいと思っています。

それと、あくまでGDCのラインではあるので、熊谷さんのルーツだったり、自分が見てきた中の「熊谷さんってこういうところあるよね」という部分も。葉山に家があって、海の近くのライフスタイルと距離が近い。そういう匂いや雰囲気を、どことなく出していけたらいいなと思っています。

実際のアイテムについてもお聞かせください。ファーストドロップの背景にある、お二人の対話や着想源はあったのでしょうか?

熊谷:今回は最初にRussellとの取り組みが決まっていたから、ストーリーを作りやすかったのかな。

神谷:そうですね。自分も他の仕事でも、どこかのブランドとコラボレーションを引き合わせるような仕事を結構やっていたので、スタートとしてはスムーズでした。

ちょうど今回のプロジェクトの始動が決まった頃、オリジナルのGDCのスウェットで、フェードのかかったすごく雰囲気の良いベージュのスウェットがあって。それを見た時に「すごく良いな」と思っていたら、そのタイミングでRussellの展示会があったんです。そこから今回のスウェットのセットアップやフーディーのデザインが進んでいきました。

熊谷: 龍は昔のGDCも知っているから、どういうアイテムがあったとか、「あんなのありましたよね」とか、そういう意味でも話しやすい。あとは、自分がRussellとコラボしたら、きっとこうはならないだろうから。

着想源はGDCのアイテムでありながら、神谷さん“らしさ”をどういった部分で表現されるように意識されたのですか?

神谷:例えばこのフーディーも、一体型じゃなくて後付けのフードにしているのは、やっぱりヴィンテージが好きだからで。ボディの年式が古いものをあえて選んだり、ガセットを付けたり。

だけど単に年式を古くしても古臭くなってしまうので、トッピングの仕様として加工感があったり、少し柔らかみが感じられるような意識はしています。

普通だと、ここまで年式を下げるようなことってあまりしないと思うんです。なくてもいい仕様を、あえてやってみるとか。ただ、そこばかりを掘り下げず、バランス感覚は大事にしています。

サイズ感も含めてですけど、例えばディテールひとつにしても。最近ウォレットチェーンをする人が多いなと思って、スウェットパンツだけどウォレットチェーンを付けられるようにループを付けていたりとか。

ヴィンテージは好きだけど、あくまで現代を生きているので、コスプレっぽくならないようにしています。

お二人の中で、クリエイションにおける役割の分担などはされていますか?

熊谷:いや、特になかったよね(笑)。

神谷:「本家のGDCとは、あまり近づきすぎないようにしよう」みたいな会話があったくらいですかね。

熊谷:やっていることが結局は似ているからね。

神谷:それでいうと、やっぱりGDCではやらない柔らかい印象、海の匂いが少ししそうな70年代くらいのヴィンテージのテイストはproject dの領域ですかね。より肩の力を抜いたようなラインというか。「休日用に何か買いたいな」と思った時に、こっちのアイテムが選ばれるとかは嬉しいですね。

ブランドステートメントにあった「マイノリティアイテム」とは、具体的にどのようなアイテムのことでしょうか?

神谷:例えば年式で言ったら、70年代とかのLevi’s(リーバイス)で見られるようなブッシュパンツだったりとか。そういうアイテムって、大々的に打ち出すようなものではないと思うんですよ。

普通はポケットのジーンズとかを使うと思うんですけど、当時出ていたものの中でも「これは選ばないでしょ」という、マイナーなアイテムをむしろ率先して作っていけたらとは考えています。

マイノリティアイテムっていうのは、project dの中でも今後キーになってくるんじゃないかと。他で買えるものをわざわざ作っても面白くないし、GDCでやらないことをやっていきたいですね。

最後に、今後のproject dにおける展望を教えてください。

神谷: セカンドドロップまではコラボレーションが続くのですが、その後はインラインのアイテムからスタートする予定です。アイテムもしっかりと良いものが出来次第、リリースしていくというイメージでいます。

憧れの方との、夢のような貴重な機会なので、緊張感はもちろんありますが、続けられる限りは長く続けていきたいです。

熊谷: ゆくゆくはproject dが一人歩きして、人気が出るくらいになってほしいかな。GDCの中でひとつのカテゴリーとして確立されて、独立する可能性だってあると思うし。そのうちproject dとしてお店を作るとか、そういう夢があってもいいですよね。

GDCの再始動から約1年半、その新たな一手として始まるproject d。GDCの歴史をそのまま踏襲するのではなく、ヴィンテージを知り、アメリカンカジュアルの文脈を理解したうえで、そこから再解釈していく。熊谷が長年培ってきたスタイルと、神谷が持つヴィンテージへの知識や独自の感覚。その二つが交わることで、既存のGDCとはまた違う、新しい“抜け感”が生まれる。

その先にあるのは、単なる延長線上の一つのラインという位置付けでは終わらないのかもしれない。

熊谷が語る「一人歩き」という言葉の通り、project dがGDCの中で独自の存在感を放ち、やがてひとつのブランドとして確立していく。まだプロジェクトのローンチを迎える前だが、その先にどんな景色が広がっていくのかも楽しみなところだ。

デビューコレクションは、2026年8月17日(月)21:00に発売。今後のリリースは、ドラマの放送枠になぞらえた“月9”を予定しているという。そんなユーモアのある仕掛けからも、神谷が度々口にしていた“抜け感”が伝わってくる。肩の力を抜きながらも、細部には確かな理由がある。project dは、そんな二人のスタイルから始まる新しい試みなのかもしれない。