デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
File 056:たいやき と(東京都・荏原)
スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 056では東京都内に住んでいる人でも以外と知らない街、品川区・荏原で昔ながらの一丁焼きスタイルで営業をするたいやき屋「たいやき と」を訪れた。
Text Takaaki Miyake
イラストレーターが作るたい焼き
File 021で紹介したギャラリー「same gallery」からほど近い今回の「たいやき と」は、昭和から存在するような店構えも相まって、2022年オープンと思えないほど住宅や町工場が並ぶ周辺の景色に自然と溶け込んでいる。
それにしても東急目黒線の武蔵小山駅や西小山駅から、歩いて10分以上は優にかかる“最寄り駅なき場所”で、なぜたい焼き屋をオープンしたのだろうか?
そこにはたい焼きのみならず、オールドスクールな暖簾に描かれたポップなイラストも自ら手がけた、店主でありイラストレーターでもある長谷川大祐さんならではの理由があった。
始まりはある妄想から
2018年に上京する前から地元の岡山で会社員をやりつつ、TOWN君 という名義でイラストレーターとして活動しており、現在でも年に数回の個展を開催したり、HIPHOPグループ FNCY のTシャツデザインを描いたりもしてる。
中でもアイコン的存在になっているのが、アーティスト名と同名の帽子を被る少年風のキャラクターのTOWNくんだ。
「『もしTOWNくんが食べられたら面白いな』って、突然だけどある日妄想に耽ることがあったんです。たい焼きって言わばジャパニーズストリートフードでカッコ良いなと前から思っていたし、だったら『たい焼きじゃなくて、TOWN焼きを作ろう』と思ったのがきっかけでした。
だけどオリジナルの鋳型って金額が結構高いので、今はクラシックなたい焼きを作りながらその夢をいつか叶えたいですね」
この唐突ながらもアーティストらしいアイデアが「たいやき と」の出発点であると同時に今後の目標でもある。
ストリートではない本格派
ここまで聞くといわゆる“ストリートな”たい焼き屋をイメージするかもしれないが、「だいやき と」では徹底してローカルな繋がりを大切にしている。
「カルチャー色はあまり出したくなくて、近所の人が気軽に通える地域に馴染むお店でいたいんです。スケーターの先輩がピザ屋をやってるのを見て憧れたりしましたが、自分にはカッコ良すぎるんですよね」
さらに「たいやき と」では一丁焼きと呼ばれる、一匹一匹を丁寧に焼き上げる昔ながらの製法を採用しており、オープン前は麻布十番の老舗たいやき店「浪花家総本店」でも修行を積んだ本格派だ。
加えてアルコールの提供、月に一度のたこ焼きデーなども開催しており、コミュニティが集まる地域のハブとしての役割もにもなっている。
たいやき と?
取材前から気になっていた店名に入る“と”には、様々な意味が込められていることを最後に教えてくれた。
「お店のマスコットにもなっていますが、将棋で一番弱い歩の駒でも前に進み続ければ強い駒に変わりますよね。同じくインディペンデントでやっていても、地道に続けることでそういった姿勢を貫きたいなと思っています」
「もう一つはアンドの『〇〇と』の意味もあります。やっぱり普通のたい焼き屋にはできない、イラストレーターの自分だからできる繋がりから生まれる企画やグッズの制作も、今後はより積極的に活動していくつもりです」
実は TOWN君 としては現代アーティストの 加賀美健 や 平山昌尚 が主宰する TRENDY ART CLUB のメンバーとしても活動しており、これからはたい焼き“と”何が続くのか期待したい。
大人にとっても、子供にとっても駄菓子屋感覚で通えそうな「たいやき と」で、いつかTOWN焼きを楽しめる日も近そうだ。
DESTINATION STORES | File 56
タイヤキ ト | たいやき と
東京都品川区荏原6-6-8
営業時間:12:00〜19:00
定休日:月・火曜日
https://www.instagram.com/taiyaki___to/