POGGY × ポルシェ が描く クルマとファッションの新しい関係
2025.01.22
POGGY × ポルシェ

稀代のファッションキュレーターがカスタマイズした ポルシェ911 が登場

Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Yasuyuki Takaki 
取材協力 ポルシェセンター青山 世田谷認定中古車センター

数々のブランドとのコラボレーションや海外のファッションクリエイターとの協業、そしてFASHION PRIZE OF TOKYOの審査員など、まさに日本の“ファッションキュレーター”として八面六臂に活躍する 小木“Poggy”基史が、ドイツの名車 ポルシェ (PORSCHE)による “世界にただ一台のポルシェ”を実現するSonderwunsch(スペシャルリクエスト)プログラム、「エクスクルーシブ マニュファクチャー」によって、911カレラT (911 Carrera T)をベースにした理想の一台を完成させた。

外装色だけでなく、内外装の細かい部分までこだわったという車両は、取材現場に居合わせたポルシェのディーラースタッフも感嘆の声を漏らすほどの特別仕様。さらに今回はポルシェとのコラボレーションという形で、SELECT by BAYCREW’Sセレクト バイ ベイクルーズ)にてアパレルコレクションもリリースするなど、クルマとファッションの新たな関係性を感じるプロジェクトとなっている。

HONEYEE.COMでは今回のプロジェクトのローンチに際し、その車両を目の前に小木に話を聞いた。
クルマとファッションの可能性、そして小木が考えるコラボレーションの真髄とは。

ポルシェはLevi’s® に似ている?

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― 小木さんにとって、ポルシェはどういう存在だったのですか?

小木 : 小さい頃からスーパーカーの本とかを読んで、憧れをいただいていたのはあるのですが、あまり僕自身がポルシェに乗るイメージはなかったんです。でも4年ほど前に海外のアーティストで親友でもあるダニエル・アーシャムが、ポルシェ911(992型)をカスタマイズし、それを日本でもイベント展開する時のトークショーに僕が参加することになったんです。コロナ禍でダニエルは来日できなかったのですが、「少しはポルシェのことを勉強しなきゃ」と色々学んでいくうちに、すごく面白くてハマって行ったんです。

― それ以前はどんなクルマにお乗りだったのですか?

小木 : 僕はずーっとファッションにお金を注ぎ込んできたので(笑)、正直クルマにお金を回す余裕がなかったのもあります。 自分がポルシェにハマり出したので、「ポルシェを買いたい」と妻に言ったら、 以前、ホンダのシティ カブリオレに乗っていた時にエアコンが効かないなどの不具合と、メンテナンスにいろいろとお金がかかったので古い車に良いイメージがなく、猛反対されました。最終的には妻の意見を押し切った形で購入しました。

― そして今お乗りになっているのは。

小木 : ポルシェ911(996型)という2000年頃のモデルです。996は空冷エンジンから水冷エンジンに変わった最初のモデルなのですが、それまでの空冷が好きだったマニアの人からは批判のあるクルマでもあったんです。その頃、Lowercaseロウワーケース)の梶原由景)さんと一緒にLOOPWHEELERループウィラー)とのコラボレーションをしていたのですが、LOOPWHEELERの鈴木)さんがポルシェがお好きで、凄くお詳しくて。打ち合わせのたびに鈴木さんにご相談していたのですが、「996はどうですか?」と聞いたら、「意外にいいと思う」と言ってくれて、中古で手の届く範囲だったので購入を決めたんです。まさにこのお店(ポルシェ青山 世田谷認定中古車センター)にあった中古車でした。

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― そこからまたポルシェにハマって行ったのですね。

小木 : 僕が買ったのは、カレラ4という四輪駆動なので、「本来の911らしさは味わえない」とマニアからは言われてしまうモデルなのですが、僕は相当グルーブ感を感じてですね。そこから更にポルシェが好きになりました。

 小木さんがポルシェのことを調べて、「面白い」と感じたのは、どういう部分だったのでしょうか。

小木 : 911は、後ろにエンジンが積んであって後輪駆動のRRが特徴なのですが、そこには良さもウィークポイントもあるんです。さらに4シーターなので、2シーターよりも利便性があるところ、そしてそういうスタイルを60年以上も続けているところですね。同じ911でも年代によって呼び方が変わったりするのですが、例えばNew Balanceニューバランス)の990がv2、v3みたいに進化する感じや、ヴィンテージのLevi’s®リーバイス) の501® が時代によって変わって、「この時代のこのディティールが好き」と言う感じとか、そういうところにも近いというか。古いものだけじゃなく、最新のポルシェも凄く良い仕上がりですし、911はずっと911であり続けているところは、どこか自分が好きなファッションにも近いと思ったんです。

世界の“ポルシェ好き”たちと意見交換して生まれたカスタマイズ

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― New Balance と Levi’s®の喩えは小木さんらしいというか、じつに腑に落ちます。しかしクルマとファッションというのは、近いようで遠いというか、これまで接点が少なかった気がします。

小木 : 海外だとフランスのカーディーラー、L’Art de L’Automobile(@lartdelautomobile )のArthur Karアーサー・カー)が手掛けるブランドKAR(@lartdelautomobilekar)や、ニューヨークの Aimé Leon Dore(エメ レオン ドレ)@aimeleondore がポルシェとコラボレーションしたりと、海外だとクルマとファッションのカルチャーが結び付いてきているんです。でもまだ日本だと「クルマ好きな人はクルマだけ好き」な人も多いと聞きますし。日本でもファッションとクルマのカルチャーは凄く大切なので、「そういうのが出来ないですかね」とポルシェの方ともお話をしていたんです。そこから今回のお話に繋がったところはあります。

― 今回のプロジェクトはグローバルなものでもあるのですよね。

小木 : もともとはポルシェジャパンさんの方から、「エクスクルーシブ・マニファクチャー」という、ポルシェオーナーの方が細部までカスタマイズできるプログラムをもっと日本にも浸透させたいというお話から始まりました。僕にとってそれはもう夢のようなお話で。僕自身もドイツのポルシェの本社に行って、色々なクルマが展示されている場所で色やディティールを選んでいきました。なので、結果的にグローバルなプロジェクトになった感じです。

― ベースになったモデルは指定があったのですか?

小木 : いえ、最初はGT3というめちゃくちゃ速いモデルはどうかというお話もありました。ただ僕はそこまで運転は上手くないし、僕にはオーバースペックというのと、マニュアルの素のカレラに乗りたいと思ってましたので、911カレラTを選ばせてもらいました。

― 凄くスタイリッシュに仕上がっていますが、ある程度クルマのカスタムを経験していないと難しかったのではないでしょうか。

小木 : ファッションもそうですが、オーダーが出来るというのは結構悩むんですよ。最初にある程度“芯”の部分を固めておかないと現地でも何も出来ないだろうと思っていたので、(LOOPWHEELERの)鈴木さんの事務所で昔の資料とかも色々見せていただきました。僕は1976年生まれなので、70年代のポルシェをよく見ていたのですが、車内にタータンチェックが使われているモデルが結構あって。その中でも「ドレスマッケンジー・タータン」というのが凄く良かったので、使わせてもらうことにしました。

― 外装色はどのように選んだのですか?

小木 : クラシックなインテリアの方がヴィンテージや古着にも合うので、そういうテイストを最新の機種に入れたかったんです。昔の70年代って、茶色いクルマが多くなかったですか? 僕のおじいちゃんも茶色いコロナに乗っていたりしたのですが、70年代に使われていた「セピアブラウン」という色を選びました。あとはドイツの本社に行った時に街の雰囲気を見ていると、あまりネオンサインもないくらい静かなところで、“クオリティ・オブ・ライフ”というか、そこに暮らしている人たちが楽しそうなところにも影響を受けています。ポルシェは他の高級車に比べて内装も意外とシンプルなんです。シンプルだからこそ色で遊んだ時の面白さも映えるというか。イタリア車とはまた違う、落ち着いたスポーツ感は、色で遊んでも結構サマになるんですよね。

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― そういう意味でもファッション的な感覚で見てきたものがそのまま反映出来たところもありそうですね。

小木 : でも今回オーダーする前には各国のキーパーソンに会って、アドバイスも聞きながらやっていったんです。最初は外側が強い色なので、内装は黒の方がいいのかなと思っていました。でもパリのKARのアーサーに聞いた時に、「外が天候悪い日も、室内がお前のことを照らしてくれるから、元気な色にした方がいい」と。そういう考え方もあるんだ、と思いましたね。でも最近は、「明るい色のダッシュボードはフロントガラスに反射してしまう」という理由で、明るい色は使えないんです。だから今回はギリギリ反射しないくらいの明るさのブラウンにしました。

― カスタマイズできる箇所はトータルで何箇所くらいあったのですか?

小木 : 相当ありました。細かいところまで指定できるし、それに応えようとしてくれるチームがポルシェにあるので、それこそ無限に感じるほど(笑)。しっかりコンセプトを持って望まないと、指定できなかったですね。

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― ちなみにこの記事でクルマを見た人が、小木さんと同じ物をオーダーしようと思ったら、出来るのでしょうか?

小木 : 出来ると思います。そうでなくても、自分のを見て、「ここをこうしよう」とか考える参考になってくれたら嬉しいですね。

小木基史が考える、クルマとファッションの関係

― 小木さんはさまざまなファッションブランドとお仕事をされていますが、ファッションでやることと、クルマでやることの違い、類似点はありましたか?

小木 : 歴史などを尊重しながらやるという点は同じだと思います。ただファッションって、半年とか、今はそれこそ何ヶ月で(トレンドが)変わるサイクルになっているじゃないですか。凄いタフですし、いろいろなものを見ていると自分がブレるんです。その波に合わせて行かなければならないので。でも、そういう時に911とかのブレないプロダクトを見ることで、自分を修正出来る気がするんですね。それも僕が911を好きな理由で、その「ブレない良さ」を日々感じながら僕も生きていきたいので、今回その部分はすごく気をつけましたよね。

― もちろん短いサイクルで乗り換える人もいますが、やはり長く乗る物ですしね。

小木 : 本当に今回のクルマは一生乗り続けたいし、そして普段も使いたいと思っています。

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― 今回はSELECT by BAYCREW’Sでコラボレーションの洋服を販売すると聞きました。

小木 : 2025年1月31日から(東京)虎ノ門のSELECT by BAYCREW’Sでこのクルマも展示して、洋服も販売します。90年代に裏原の方たちが中心となって、それまではちゃんとした格好で高級車に乗るっていう常識を、カジュアルな格好で乗ってもいいんじゃないかとドレスコードを変えましたよね。それはそれでもちろん大好きなのですが、僕は逆に、「たまにブレザーを着て乗ってもいいんじゃないかな」とか。あとは、ジャッキー・スチュワートというイギリスのレーシングドライバーがいるのですが、その人がスコットランド出身なので、タータンチェックのパンツを穿いて授賞式に出たりするんです。めちゃくちゃ格好良いので、その人をイメージしたような物を作ったり。あとは今だとヴィンテージのワークウェアを着て乗るのも面白いので、そういうイメージのものも出しています。

POGGY × ポルシェ
POGGY × ポルシェ

― どれもこれまでのポルシェのイメージにはなかったものですね。

小木 : はい、でも全てアプルーバルは通っていますし、ポルシェのクレストは使うのが難しいんですが、それを使わせてもらったり、ロゴもクラシックな方を使わせてもらったりとか。なかなかできないことが今回実現しています。コラボしたりすると自分で着るのが少し恥ずかしいものもあるんですけど、今回は全部自分で着たいものばかりです。このGジャンも、長年シートベルトで日焼けしたような加工にしていたり。

― 全然気づかなかったけど、それはめちゃくちゃ面白いですね。しかも意味のあるデザインになっているところも粋というか。

日本のファッションの可能性

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― 小木さんに改めてお聞きしたいのですが、小木さんにとって「コラボレーションの極意」とは何だと思われますか?

小木 : 日本においては「歴史を紐解きながらやっていくこと」が大切な気がします。海外の場合、それだと少し物足りないと言われてしまうのですが。もっと「今まで見たことがないもの」を求められるんです。でも日本の場合、街全体、クルマも洋服もそうですし、アーカイブに囲まれて生活しているので、そこから発想した物作りでコラボレーションしていくことが一番説得力もあるかなと思います。

― 近年の世界のファッションの動向にどのような変化を感じていますか?

小木 : ストリートファッションは形を変えていて、日本だとサブカルオンラインのような、韓国のファッションとリンクしたような若い子たちもいますし、少し変わり始めています。そしてストリートだった人たちも、大人なファッションをしたくなっている人も増えています。例えば時計でも、オーデマ・ピゲaudemars piguet)のロイヤルオークとかの大きめなものをしていた人たちが、ちょっと小さめのサイズやドレスウォッチに流れていたり。「ハイプな洋服はもう沢山持っているから、上質でシンプルな洗練されたクローゼットにしていきたい」という人は世界的に増えていると思います。“クワイエット・ラグジュアリー”とか世界で言われていますけど、実は日本ってずっとそれがあるじゃないですか。

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― そうですね。パッと見で分からないくらいの方がいいという感覚ですよね。そういう意味では、日本のブランドにもまた世界に通じる可能性が出てきた感じがしますね。

小木 : 今AURALEEオーラリー)が世界への扉を開いていますよね。ああいうシンプルでクオリティが高い物作りというのは海外だとなかなか難しいのですが、AURALEEが道を拓いて、次はその次の若手としてsssteinシュタイン)が今度パリでもショーを始めます。あとはA.PRESSE (アプレッセ)も海外でファンが増えてきていますね。カルチャーが詰まったシンプルで上質な洋服が海外でも売れていくような流れになっています。僕はFASHION PRIZE OF TOKYOの審査員もやらせていただいているので、今後も若手の日本の才能のあるブランドをもっとサポートできればと思っています。

― 小木さんは本当に“ファッション・キュレーター”という肩書きとしてのお仕事をされていると思います。

小木 : 最初はそこまで考えていなかったですけどね(笑)。でも僕の今を形成してくれているのは、セレクトショップ(UNITED ARROWS)で育ったおかげです。日本のセレクトショップは国や年代、カテゴリー、カルチャー、プライス帯など様々なミックスで成り立っているのですが、今回のクルマのように、そういうことをやっていきたいですね。セレクトショップ出身者として。

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小木“Poggy”基史 | Motofumi “Poggy” Kogi

1976年生まれ。1997年にUNITED ARROWS入社し、販売スタッフ・PRを経て、2006年に社内プロジェクトでコンセプトショップLiquor,Woman&Tearsをオープン。2010年にUNITED ARROWS & SONSを立ち上げ、ディレクターを務める。2018年に独立し、ファッションキュレーターとしてWILDSIDE YOHJI YAMAMOTO、渋谷PARCOの2Gをはじめ、国内外数々のプロジェクトを手がける。自身のプロジェクトPOGGYTHEMAN、POGGY’S BOXでも積極的な活動を行っている。
https://www.instagram.com/poggytheman/

INFORMATION]
PORSCHE × POGGY Capsule Collection Limited Store
at SELECT by BAYCREW'S Toranomon Hills Station Tower

会場 : SELECT by BAYCREW'S
会期 : 2025年1月31日(金)〜3月4日(火)
住所:東京都港区虎ノ門2丁目6番3号 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 2.3階
電話番号:03-3528-8262
営業時間:11:00 - 20:00
定休日:不定休

Porsche Exclusive Manufaktur (ポルシェ エクスクルーシブ マニファクチャー)
https://www.porsche.com/japan/jp/accessoriesandservice/exclusive-manufaktur/

問い合わせ先 : 全国ポルシェセンター
https://www.porsche.com/japan/jp/dealersearch/

[編集後記]
過去に何度も取材をさせていただいている小木さんだが、実はHONEYEE.COMで改めて取材をするのは初めてだった。小木さんの活躍は読者の皆様もご存知のことと思うが、今回のプロジェクトに小木さんが相当な愛情をかけたことは、この取材で改めて感じた。ファッション好きにクルマ好きは多いのだが、意外と接点は少ない。特に日本の自動車メーカーとファッションの遠さには、正直長年ヤキモキしているので、このプロジェクトのような取り組みが日本でもっと増えてくれることを期待せずにはいられない。(武井)