アーティスト 花井祐介 のビューティフル・ペインティングライフ
2023.07.03
花井祐介 Yusuke Hanai

6年振りとなる日本での個展「PebbLes AND RiPPLes」で描かれた“小石の波紋”

Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Atsutomo Hino

近年活動の幅を広げ、世界的な知名度を誇るようになったアーティスト 花井祐介 による、国内では6年振りとなる個展、「PebbLes AND RiPPLes」が、所属ギャラリーである東京・原宿のGALLEERY TARGETで始まった(※会期 : 2023年6月16日~2023年7月8日)。

原宿の小さなアートスポットだったGALLEERY TARGETが拡大移転リニューアルして開催された第2弾である今回の展示は、東京のファインアート・マーケットの拡大と、花井自身のアーティストとしての成長を裏付けるものとなっている。「PebbLes AND RiPPLes」の意味するところは、「小石と波紋」。花井祐介が投げ続ける創作の波紋の広がりを確認しに、話を聞きに行った。

サーフカルチャーとの出会いが創作の扉を開ける

花井祐介 Yusuke Hanai

― 改めて花井さんのキャリアについてお聞きしたいのですが、どのように絵を描くことをスタートしたのですか?

花井 : 高校生の時に幼馴染がバイトを始めたカフェがあって、そのオーナーがサーファーで、僕もサーフィンを始めたんです。その人が別の場所にバーを作るというので、1年くらいかけてDIYで店作りを手伝ったんですね。「看板とかメニューも作らなきゃね」という話になり、「このメンバーの中でまともに絵がかけるのはお前しかいない」ということで僕が描くことになりました。それが人目に触れる絵を描いた最初。そこはサーファーとかミュージシャンが集まる店で、「お前の絵面白いね、Tシャツに絵を描いてよ」とか、徐々に広がって行った感じです。だから絵の勉強もしてない、完全な独学なんです。

― その頃の絵は現在にも通じる感じだったのですか。

花井 : そう思います。サーフィンを始めて、昔の60年代のサーフコミックのテイストとかが好きになったり、リック・グリフィンというアーティストの作品が好きで、70年代のジミ・ヘンドリクスやグレイトフル・デッドのポスターを真似して描いていました。そこからどう自分のオリジナリティを出そうかとやり始めたので、当時から今に通じていると思います。

― 世間的に花井さんが知られるようになったのは、「グリーンルーム・フェスティバル」での展示あたりからですか?

花井 : きっかけはそうですね。僕が働いていたバーが「グリーンルーム」に店を出すという話になって、店の看板を描いたんです。「グリーンルーム・フェスティバル」は、もともとアメリカの「ムーンシャイン・フェスティバル」を日本に持って来るというコンセプトだったのですが、そのキュレーターが来日していて、僕の絵を気に入ってくれました。彼はカリフォルニアのラグナビーチでギャラリーを持っていて、「そこで展示したい」と言ってくれて。だから「グリーンルーム」に飾る前に、先にアメリカで展示されたんです。

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― それが「The Surf Gallery」。

花井 : そうです。そこのギャラリーがトーマス・キャンベル(※)とかを扱っていて、「ハプニング」という名称でニューヨークとかロンドンとかでグループショーをやっていいました。僕もそこに連れてってもらったりしたんです。

トーマス・キャンベル…カリフォルニアのビジュアルアーティスト。絵画、彫刻、写真などで幅広く活躍。映画「Seeding」、「Sprout」、「The Present」などを監督している。

― 「ムーンシャイン・フェスティバル」や「グリーンルーム」も開催されて、いわゆるユルいサーフ、スケートカルチャーの大きな波が来たのは2004、5年頃ですよね。当時はサーフミュージックのジャック・ジョンソンが大ヒットして、スケート界からはトミー・ゲレロなどの音楽、アートではバリー・マッギーやトーマス・キャンベルとかも出てきて。

花井 : 2001年頃に「ビューティフル・ルーザーズ(※)」が出てきた流れですよね。

「ビューティフル・ルーザーズ」…ニューヨークの伝説的現代アート・ギャラリーALLEGED GALLERYによるアートショーで、書籍化もされ、同名映画化もされた。キュレーターはアーロン・ローズ。

― 懐かしいですね。「ビューティフル・ルーザーズ」は花井さんの作品に近い印象があります。やはり影響は受けていますか?

花井 : はい、大好きですね。2003、4年の頃に1年間サンフランシスコに住んでいたのですが、当時はまだ街中にバリー・マッギーさんのグラフィティがたくさん溢れていたし、まさに好きな世界でした。

カテゴライズはされたくない

花井祐介 Yusuke Hanai

― 花井さんの作品は割と初期から拝見しているのですが、当時から世界観は確立していたような印象があります。

花井 : あ、本当ですか? 自分はいまだに探している感じですけど(笑)。

― でも、花井さん自身は「“サーフアート”という括り方は嫌い」と別のインタビューでおっしゃっていますよね。

花井 : はい。カテゴライズされるのはつまらないなと思っていて。メディアってカテゴライズするのが好きじゃないですか。そうするとその中でしかいられない、その場所にしかいちゃいけないと思われるかなと。僕はただサーフィンが好き、絵が好きというだけで、むしろサーフィンの絵はあまり描かないので。

― そこの関連性はあまり作りたくない。

花井 : 見る人も「サーファーじゃない人は僕の絵に興味を持っちゃいけない」みたいなことにもなるし、そういうのがすごく嫌なんですよ。

― とは言え、花井さんがここ近年の東京のファインアートシーンの中に入って、それが世界的な人気になったのは正直意外でした。

花井 : 僕も意外です。こんなことになると思いませんでした(笑)。GALLERY TARGETもニッチなギャラリーでしたし。僕がTARGETの水野(桂一)さんに会ったのは、2008年頃だったと思うんですけど、友達と「どうやったら(作品が)売れる流れになるんだろうね」と話していて、何人かでMEGANE ZINEというZINEを作ったんです。そこにいたのが、僕とか長場雄JUN OSON、あとLYちゃんという女性、あとは大西くんという今はアートディレクターの仕事をしている人で、ZINE’S MARKETやアートフェアに出していたんです。

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― 長場さんもいたんですね。今となってはかなり豪華なZINE。でもZINEは時代の流れでもありましたよね。

花井 : とりあえずZINE作ろうみたいな(笑)。で、「東京アートブックフェアー」に出した時の隣がたまたまGALLERY TARGETだったんです。水野さんもアートブックフェアー初めてだと言っていて、「僕らの展示もやってくださいよー」とお願いして、合同展やったのが2010年くらいですね。まだTARGETも小さなギャラリーで、展示の時は仲間の一人がアメリカのスリフトショップで買ってきたガラクタに、みんなで絵を描いて売っていたんです。ビンとか灰皿とかに何か描いて、1個1万円とか。でもほとんど売れなくて、水野さんが「しょうがないから一つずつ買ってあげるよ」と(笑)。それで仲良くなって。

― 今では考えられないエピソードです。

花井 : 水野さんも現代アートとかが好きなわけじゃなくて、カルチャーが好きな人なんですよね。その水野さんが「花井くん展示やらない?」と言ってくれて単独の個展をやったのが2017年です。

― 割と最近ですね。

花井 : で、そこら辺から急に東京のアートが売れ出したというか、アートバブルみたいになって。今は多少落ち着いていますし、中国マーケットも今はかなり精査されていると香港のALL RIGHTS RESERVEDの人も言っていましたが。

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― 花井さん的に「意外だった」とおっしゃっていますけど、いつかそういう文脈に乗ろうというお気持ちはあったのですか?

花井 : まったくないですよ(笑)。絵は好きですけど、別に芸術“家”みたいなところに行こうとしていないし。僕は美術の本流にはいないし、その外側で遊んでいるだけの存在だと思っています。少し前からBEAMSでTシャツ作らせてもらったりとかで、そこそこ飯は食えるようになっていたし、別にそれでよかったんです。好きな絵を描いて、サーフィンをやって、雑誌の挿絵とかで生活できればいいかなと思っていたので。美術界に入ろうとも思っていなかったし、そもそも興味ないんですよね。

― 今でも。

花井 : はい。僕が好きだったのはそれこそ、「ビューティフル・ルーザーズ」とかの世界。僕はスケートやるわけでも、グラフィティやるわけでもないですが、ただ自分の好きなサーフィンというカルチャーの中にいて、そこで絵を描いている。それこそVANSと仕事出来たりしたら嬉しいなっていうくらい。海が好きで、サーフィンが好きで、そういう風に仕事して生活できれば最高だなって。いわゆる現代美術を見ても、何が面白いのか分からないし。

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― でもそれがここ数年で状況が変わりましたね。

花井 : だから少し異常なんじゃないかと思っていますけどね。

― でも、大きなキャンバス作品を描けるようになったことはポジティブに捉えていますか?

花井 : 求められるのが大きいキャンバスなので、大きいのを描くのは楽しいです。でもだからと言って、美術界の大物に媚を売ろうとは思わない(笑)。もちろん自分の絵をポジティブに見てくれて、声をかけてもらったら、それこそ美術館でもどこでも展示をやるのは良いですけど。それは美術界の人でも、サーファーの人でもいいんです。

投げ続ける小石の波紋

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― 花井さんの作品は、ぱっと見は陽気な印象がありますが、近くで拝見すると、思ったよりも暗かったり、孤独だったりを感じる絵ですよね。

花井 : 人によって見方も違うと思いますが、それは僕のことを長く見てくれているからだと思います。昔は「サーフィンっぽく明るい絵を描いて」というオファーが多くて正直嫌だったんですけど、「そうじゃなきゃ売れないから」と。でも自分が描きたいのはこういう絵なんです。だから昔から知っている人は、サーフィンっぽい、カリフォルニア、ハワイ、みたいな印象を持つ人もいますけど、多分最近になって僕の絵を見ている人は、そう感じないんじゃないかな。やっと僕はそういうところから抜けられたと思ってて。

― 基本的に背景色はグレーだったりしますしね。

花井 : そうですね。自分の好きな色です。描いているのも、それこそ友達と飲んでて、自虐ネタで笑っているみたいな絵。普段の生活の中で「やっちゃったなー」とか。顔はしかめっ面だったりすることも多いですし。

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― ポツーンとしている人も多いですし(笑)。

花井 : そうですね。自分が結構そういうタイプなんで。一人でいるの好きだし。

― じゃあ自分の投影みたいなところでもあるわけですね。

花井 : それもあります。それもあるし、誰ってわけじゃないけど友達のことだったりもするし、自分の生活の中で見かけた人を、ごちゃまぜにしている感じですかね。生活のちょっとしたひと場面で、自分が心に残ったものを描いている感じです。

― 今回の展示のタイトルも「小石と波紋」。それ自体もちょっと虚無感みたいなのがありますよね。「やってもあんまり変わんないんだけど」みたいな。

花井 : それでもアーティストとしてのメッセージみたいなのはあって、その波紋をどう拡げるかだと思っているんです。一生懸命やったところで、あまりその波紋は広がらなかったりするかもだけど、いつか消えない波紋になるかな、とか。

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― そういう想いが込められているんですね。

花井 : はい、実はそうなんです。

― 花井さんの作品を見ていると、そこに流れているストーリーも感じます。そのシーンの前後を感じるというか。

花井 : 一応自分の中には全部ストーリーはあるんです。でもそれを言っちゃうと絵を見る楽しみがなくなるかなって。絵を見た感想って個人の自由じゃないですか。それを「こういうものです」って説明をしちゃうと、「あ、そうなんですね」になってしまう。そこにタイトルもなく、説明もなければ、見た人が自分なりのストーリーを作れるし、それが絵を見る楽しみなのかなと思うので。でも、一方では自分の中には、「こういうことを伝えたい」っていうのはあるんですけどね(笑)。

― 説明がないことで、受け手は自由に見ることができますね。でも、アーティストの本意は隠されている。

花井 : それをまあ、なんとなく感じてくれたりしたら楽しいです。でも全然違う見方とする人もいますけどね。それはそれで面白いなと思います。

ビューティフル・ペインティング・ライフ

花井祐介 Yusuke Hanai

― 花井さんの絵で描かれている人も、ちょっと「ビューティフル・ルーザーズ」的ですよね。

花井 : あはは、そうですね(笑)。でも、それを見てちょっと心が軽くなったり、こんなことあるよねと感じたり、笑えたりして、何かしら心に響けばいいかなというのはあります。

― これは個人的な受け取り方ですが、花井さんの絵の中でポツンとしている人を見ると、ちょっと安心するんです。一人になる時間って、実はたっぷりあるじゃないですか。こうして誰かに会うハレの時間はあるけど、一方でボーッとしている時間も結構ある。「あ、自分だな」、みたいな。

花井 : まさに僕もそうです。すごくハッピーで、バンザイして、ニコニコして、虹の下で青空の下で、みたいな絵は見ていられないというか、逆に重いみたいな(笑)。

― 山下達郎さんが「夏だ、海だ、タツローだ」って言われるのが嫌で、そういう曲を書きたくなくなったという話がありますけど、それに近いですね。

花井 : まさにそれです。すっごくわかりますね。サーフィンの絵=花井祐介みたいに思われていたら、絶対サーフィンの絵を描くもんかと(笑)。

― でも後々気分が変わってくる可能性もありますよね。

花井 : もちろん。カテゴライズされるのが嫌なだけで、もう少し歳取って丸くなってきたら描くかもしれないですね。まあサーフィンそのものは大好きなんで。

― ちなみに今の生活の中において、どのように絵は描いているのですか。

花井 : 朝起きて子供を送って、仕事場まで歩いて行って、9時頃から仕事始めて、6時頃まで仕事して歩いて家に帰るって感じですかね(笑)。

― 規則正しい生活。

花井 : はい、そして仕事の合間に波があれば、サーフィンして。僕がいつも行っているサーフポイントの近くにあえて仕事場も構えたんです。まさに今回の展示の小屋みたいな感じの場所です。

花井祐介 Yusuke Hanai
花井祐介 Yusuke Hanai

― ああいう雰囲気なんですね。

花井 : そうですね。今回の展示で飾っているように、自分と身近で好きなアーティストの作品や、海で拾ったものを置いています。

― 今回の展示の後、何か決まっている予定はありますか?

花井 : 8月にLAで個展があるので、今は毎日描いています。今後は海外での展示が増えそうで、今回は6年振りでしたけど、日本で個展をやるのはしばらく先になるかもしれないですね。絵を描くことは好きなんで、ずっと死ぬまで描い続けていると思いますよ。

花井祐介 Yusuke Hanai

Profile
花井祐介 | Yusuke Hanai 

神奈川県生まれ。アメリカ・フランス・オーストラリア・ブラジル・台湾・イギリスなど世界各地で作品を発表し、現在までにVANS、NIXON、BEAMSなどへのアートワークの提供など、国内外問わず活躍の場を広げている。2009年に作品がブラジルのサントス・サーフ・ミュージアム(Santos Surf Museum)のパーマネントコレクション(永久収蔵品)に選ばれている。日本の美的感覚とアメリカのレトロなイラストレーションを融合させたスタイルを生み出しており、作風は1950年~1960年代のカウンターカルチャーの影響を色濃く受けている。  
https://www.hanaiyusuke.com
https://www.instagram.com/hanaiyusuke/
https://www.instagram.com/gallery_target/
https://www.gallery-target.com

[個展開催情報]
花井祐介「PebbLes AND RiPPLes」  

開催期間 : 2023年6月16日(金)〜7月8日(土)  
会場 : GALLEERY TARGET 東京都渋谷区神宮前5-9-25
TEL : 03-6427-3038
営業時間 : 12:00〜19:00 (*日、月、祝日は休廊)  

[編集後記]
サーフカルチャーのシーンから出てきた、アメリカ的なのに日本らしさも感じられるポップなアート。その作風は、以前はもっとカラッとした印象があったのだが、近年はどこか哀愁を帯びた人物像たちの姿に進化していた。花井祐介さんの作品が、近年ファインアート的なフィールドで世界的人気を博しているのは少し意外だったが、花井さん自身もそういう感想を持っていると聞いて、なぜかホッとした。あくまでも自然体に、より自分が表現したい世界観に近づいていると話してくれたアーティストは、これからもナチュラルな進化を続けていきそうだ。(武井)